「じゅうななさい」とひな人形
音無 雪
わたしたちのかんがえたさいきょうのおひなさま
「あかねさんのひな人形を作ろう会議始めますっ」
我が家のひな人形の前で会議が始まりました。
発起人はあかねさん大好きな中学生のしおんさん 彼女はあかねさんのお嫁さ
んになることを夢見ている少女でございます。
「あかねさんの部屋にひな人形が無いのは意外でした」
不思議そうな顔の百合さん 私の可愛い妹でございます。
実家を出て独り暮らしをしているあかねさん こちらにはひな人形を持ってき
てはいません。代々伝わる名家ですのでひな人形も受け継がれた段飾り 実家
でご両親の手によってきれいに飾り付けられております。
「どうやって作ればよいのかな。 私工作苦手だよ」
自信なさげなトテさん 百合さんの親友でございます。確かにひな人形を作る
と言っても難しそうですからね。
「雪ねえさまのひな人形みたいにどぉんと大きいのは無理だよね」
このひな人形も代々受け継がれたものでございます。修復はされておりますが
かなり古いものですよ。最近のひな人形の方が華やかだと思いますし、段飾り
は少数派になりつつありますからね。
「メインのふたりがいれば良いと思います。案は持ってきましたっ じゃぁ
ん」
セルフ効果音と共になにやら本を広げるしおんさん 和紙を使った工作の本で
すね。写真付きで丁寧に解説されております。
和紙を漏斗状にして少しずつずらしながら張り込むことで着物を着た人形の胴
体が完成するようです。合計12枚の和紙を使う大作ですね。いわゆる十二単
を模しているのでしょう。
「お人形の顔はお父さんが作ってくれました。後は顔を描くだけです」
しおんさんのお父さまは優秀なエンジニアでいらっしゃいます。何でも器用に
作り上げるのですね。よく見ると和紙で作られております。どうやって作った
のでしょうか 謎の技術力でございます。
「参考の写真を持ってきました。大きくプリントアウトしてきたから見やすい
と思います」
百合さんが紙を広げると十二単を着た女性の写真 方向を変えて何枚も撮って
あるので参考になりますね。
参考になりますけど・・・ 見覚えのある女性でございます。
「あっ 雪ねえさまだ 雪ねえさまはおひなさまになったことがあるんだ」
おひなさまにはなっておりませんが、この写真は私ですよ。博物館で日本文化
を紹介するイベントとして『十二単を着付けする工程を実演します』が開催さ
れた時の物です。そう私がちょうどじゅうななさいの頃でしたね。
長い黒髪の女性というだけで抜擢されました。じゅうななさいも色々ありまし
て断れなかったのですよ。
「いいなぁ 私も十二単を着てみたいなぁ」
あまりお勧めしませんよ。見た目は華やかですがとっても重いのです。バトル
スーツの上にアーマードパーツを装着したくらいに重いですよ。しかもひとり
で動くことなんて出来ませんからね。
「アーマードパーツカッコ良いです です」
トテさんは何か別方向に向かっていませんか
――――
慎重に丁寧に顔を書き入れるしおんさん 指がプルプルしてなかなか落ち着か
ないようです。難しいですよね。
それでも大好きなあかねさんの写真を前にして最後の一筆でございます。
「出来ましたわ」
しおんさん いきなりお嬢さまモードに入っております。どうしたのでしょう
か。
もう一つは百合さんが担当しております。
「出来ましたわ」
これは最近流行っているのですか。
赤い毛氈に折り紙を張り込んだ金屏風 お人形を並べてみると立派ではありま
せんか。
「「「完成ですわ」」」
最後はお嬢さまが声を合わせて完成でございます。
「早くあかねさんにプレゼントしたいね」
「喜んでもらえるでしょうか」
「力作です です」
騒いでいると我が母が顔をのぞかせます。母も百合さんたちが大好きですから
ね。
「あら可愛いおひなさまね」
「あかねさんの部屋に飾ってもらうために作りました」
「だからなのね。きっと喜んでもらえるわよ」
母よ。言うべきことはそれだけでございますか。
――――
――――
あかねの部屋
リビングのテーブルに飾られることになったひな人形
三人のお嬢さまが心を込めて作ってくれたひな人形です。
「見ていると涙が出てくるね。嬉しくてたまらないの」
本当に泣きそうな顔をしているあかね
あかねの為に作られた世界にひとつだけのひな人形ですからね。私も心が温か
くなります。
・・・でもですよ。
十二単のお姫さま セミロングの黒髪 あかねの特徴を良くとらえた可愛い顔
立ち
そして
十二単のお姫さま 結わずに床まで延びる長い黒髪 私によく似た顔立ち
どうしてお姫さまがふたり並んでいるのですか。お内裏さまはどこへ行かれた
のですか。どうして誰も指摘しないのですか。
十二単に使う和紙を二人分用意したしおんさん
セミロングの髪をつけた顔と長い黒髪の顔を用意したしおんさんのお父さま
十二単の参考にするからと私の写真だけ持ってきた百合さん
お嫁さんはどちらに並べるのですか。と真剣に悩んでいたトテさん
あかねさんがお嫁さんだからこちらね。とアドバイスをしていた母
そしてプレゼントされた時に心からの笑顔を見せたあかね
いろいろ思うところはございますが、こんなひなまつりも良いのかも知れませ
ん。
みなさん 笑顔ですからね。
「じゅうななさい」とひな人形 音無 雪 @kumadoor
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