雛祀り

水城みつは

雛祀り

 今年もお題が出る季節になってしまった。今回は割と素直なお題である「ひなまつり」だ。また、各お題に対する執筆期間は三日程しかない。

 更に、お題以外での賞として文字数を900文字ちょうどとする「ぴったりで賞」や、特定のフレーズを含める賞も用意されている。特定フレーズについてはここで言及してレギュレーションを満たすような方法は取るべきでないだろう。

 まずは「ひなまつり」について調べることにした。これまで「ひなまつり」には縁遠い生活を送っており、実際にひなまつりについて調べたこともなかったので良い機会だ。

 父の部屋の本棚から拝借してきた辞書をめくる。


「ひな、ひなあそび――」


―― ひなどり【雛鳥】鳥の雛……


「そういえば、『ひなまつり』の『ひな』は雛鳥の雛で良いのか……、あ、あった」


―― ひなまつり【雛祀(り)】

   3月3日に行われる行事で卵の殻や羽毛を供えて祝う行事。

   卵を奪われ荒れ狂う鳳凰を諌めるために卵を祀った風習が起源とされる。

   雛祭り。鳳凰祭り。オオトリの降臨祭。


 どうやら元は地方の伝承の行事らしい。

 ところで、このまま雛祀りについて小説を書くとすればジャンルは「伝奇」になるのだろうか?

 「伝奇」ジャンルは「歴史・時代・伝奇」であり、ジャンル説明には「史実に即した作品」などと書かれている。

 もっとも、今から元々の起源の伝承について調べている暇はないので、この案も却下だ。


 では、エッセイとするべきだろうか?

 日記のように只適当に書き連ねた文章については「エッセイ」ジャンルに近いようにも思える。

 しかし、ジャンル的には「エッセイ・ノンフィクション」となっており、その説明に「虚構をまじえず」とあるのが気にかかる。

 エッセイと言えども虚構が混じっていないこともないとは思うがこれもなしだ。小説家は息を吐くように嘘を書くものなのだ。


 結局のところ、ただつらつらと書き殴っただけの駄文はそっと「その他」ジャンルに放り込んで供養することにした。

 そして拝借してきた本を父の本棚に仕舞うべく部屋に入る。

 几帳面に五十音順に並べらた辞書関連の段「悪魔の辞典」と「アンサイクロペディア」の間に「ありそうでなかった国語辞典」をそっと戻した。

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