善意の第三者
村乃枯草
善意の第三者
ある時、僕は友人からとあるハリウッド女優の醜聞を聞きました。
ジュディ・ガーランド。第二次大戦前後に活躍した大女優です。子役から芸能人としての経歴を持ちます。映画「オズの魔法使い」に主演する彼女は実にかわいらしいです。21世紀にも通用する美少女でした。
友人は明かします。彼女は晩年は薬物に溺れ、周囲は辟易していました。薬物中毒で亡くなった後の葬儀で参列者が語ったジョークは本質を突いているものの聞くに堪えない内容で、ここには記しません。
僕は、友人について、博識であるし、健全な精神性を持っていると感じました。
その時は。
それから何年も経った今年のこと。ぼくは「NHKスペシャル 映像の世紀バタフライエフェクト 麻薬 世界を狂わせた欲望」を見ました。そこでは第二次大戦前後のハリウッドは薬物に汚染されており、ジュディ・ガーランドは、過酷な撮影スケジュールをこなせるよう、深夜に及ぶ撮影には覚醒剤で起こされ、撮影が終わると催眠剤で眠らされ、撮影開始が迫ると覚醒剤で起こされるというサイクルを10代から続けていたという証言が語られました。
未成年に栄光の喪失をちらつけて薬物を投与し、当人が薬物依存に陥ったら当人の意志の弱さをあざ笑うというのでは、見識を疑われるのは周囲の方です。
しかし、そのような視点が広まらないことは察しがつきます。ハリウッドの組織犯罪を体現した彼女については、彼女の自己責任であることを喧伝する必要がハリウッド側にあるからです。ジュディ・ガーランドは世界最大級の「プロパガンダ組織」に、もてはやされる一方で、敵にまわしてしまったのです。
友人は個人として問題はありません。ジュディ・ガーランドの問題行動は事実でしたから嘘はついていません。数年のスパンで語ることは「切り抜き」にもあたりません。数十年俯瞰しないと見えてこない問題は個人に余ります。
友人は、善意の第三者でしたが、善意が故にプロパガンダに手を貸しました。
善意の第三者なら語るのは事実だという仮定は、時に裏切られます。
僕も善意の第三者を気取っていますが間違えていないとは限りません。NHKが偏向報道をしていると指摘する人もいらっしゃるでしょう。
真相は分かりません。「分からない」が答えです。マスコミが偏向報道をしており個人が真実を語るとか、その逆とか、いずれかの傾向が全ての事例に当てはまる保証は無いのです。
「真実を知りたい」。その要望の切実さと実現可能性には大きな開きがあります。真実が分かることは稀です。確率的に嘘の方が多いことも覚悟しなければならない、かもしれません。
善意の第三者 村乃枯草 @muranokarekusa
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