MAGIC POWER FOR YOU

朝本箍

MAGIC POWER FOR YOU

 私は魔法が使える。

 正確には、あまりにささやかで限定的で、しかも必ず結果を連れてこれる訳でもない、それでも不思議の範囲に入るたったひとつの力を私は魔法と呼んでいる。

 この魔法に気づいたのは数年前、現在はサービスを終了してしまったソーシャルゲームの期間限定ガチャがきっかけだった。特定のソーシャルゲームではガチャと称して、ゲーム内で流通する宝石やコインを消費してキャラクターやアイテムを手に入れることが出来る。

 ポイントはふたつ。

 ひとつはそのガチャだけで手に入れることの出来る、やや排出率を高くした「ピックアップ」と呼ばれるキャラクターやアイテムが設定されること。開催期間にガチャすることでしか手に入らないそれらは、多くの場合優れた性能などの特別さを持っている、言わばアタリである。

 もうひとつは「必ず」お目当てのものが手に入る訳ではないこと。ガチャ、つまりガチャガチャと一緒なのだ。通常十回連続で行われるガチャはアタリもあればハズレもある、ギャンブル。既定の回数ガチャをすれば必ずアタリを貰えるという、いわゆる天井が設けられている場合もあるが大抵その天井は遥かに高く、遠い。結局は予算内での運まかせになりがちだった。

 その時のガチャでピックアップされていたのは主人公のキャラクターと縁深い魔法少女だった。悪魔っぽいビジュアルが可愛らしく、何より必殺技が強力で、私は持っていた宝石をすべて注ぎ込んだがひとりも来てくれることはなかった。

 ここで突然だが、私には妹がいる。

 小さな頃から目に入れてきたので今や、どこに入れても全く痛くない彼女はピックアップされた魔法少女のファンだった。それなりどころか相当宝石を貯めてきた彼女も最善を尽くしてガチャを回していたが、ひとりも来ないまま残り一回、正確には連続十回分まで宝石は減ってしまった。天井は遠い。

 そして彼女はタブレットを私へ渡しながら、

「あとはお願い」

 と天使らしく微笑んだ。妹は天使だからね。

 ここで出せれば私の株はストップ高間違いなしだろう。意気揚々と受け取った私はその魔法少女が出てきた瞬間を微に入り細を穿つほど脳裏に浮かべ、召喚ボタンをタップした。内心、出せなければどこまでなら課金出来るだろう、と預金残高を思い出していたことは妹には一生の秘密である。

 魔法少女は、三人やって来た。十回中三回アタリを引いたのである。自分のガチャを合わせれば百回以上挑戦しても出せなかったのに、最後の十回で三回当選。

 私の株は狙い通りにストップ高を迎え、それから妹は何か出して欲しいものがある時に「またよろしくね」と微笑むようになった。

 そう、私の魔法は「ガチャで妹の欲しがるものを出来るだけ少ない回数で手に入れることが出来る」というものである。ちなみにガチャにはリアルのガチャガチャ、カプセルトイも含まれている。

 魔法を使うコツはふたつ。

 ひとつは、それが出てくる瞬間を克明に想像すること。ソーシャルゲームのガチャならばキャラクターが光の中から登場するところ、カプセルトイならどんな色のカプセルから出てくるかまでを思い描く。

 そしてもうひとつは、絶対に出ると信じることである。信じる者は救われる。自分の予算内で必ず妹に褒めてもらうという強い決意が、偶然を魔法に昇華させるのだ。

 実際、私の魔法の勝率は七割を超えている。自分のためにガチャを回しても勝率は三割に満たないことを考えると、この数字は魔法と呼んでいいレベルだろう。

 最近では、映画館に設置されていたあるキャラクターキーホルダーのガチャガチャで、妹がコレクションしているキャラクターを二回で引き当てた。キャラクターとしては五分の一だが、ガチャガチャ全体から考えれば相当な確率である。

 目下の目標は勝率八割。さらにイメージを鮮明にし、妹に褒めてもらうという意気込みを強くして達成したいところだ。自分に対して使えるようになるのは、勝率十割を達成してから考えようと思う。

 天使には常に微笑んでいて欲しいからね。

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