第2話 お約束を捨てたはずなのに

「シェルターに入りたいんだってば」


 ショッピングモールに併設されたオメガのシェルターに向かったが、断られた。


「保護者がきちんといらっしゃるので」


 職員の説明は聞き飽きた。

 本来ならオメガが希望すればシェルターに入所できるはずなのに、何故か裕也は断られる。

 父親が手を回していることは知っていた。だが、公正な公務員が父親の側に着くなんておかしな話だ。父親はアルファ、オメガの息子が家から出たいと訴えているのに。虐待を疑いもしないのだ。

 いつもの押し問答を繰り返し、裕也は苛立ちが隠せない。ここでは無いシェルターに行けばいい。と思い立ち、裕也は受付の椅子をけって立ち上がった。


「ご、ご自宅にお帰りくださいね」


 ベータの職員が背後から叫んできた。

 裕也はバスと電車を乗り継ぎ他の街のシェルターを目指した。


「どこへ行くんだ?」


 上から覗き込むようにしてきたのは1組のアルファ、しかも名家のエリートだ。


「あんたんちの息のかかってないシェルター」


 ぶっきらぼうに答えて、その後は無視を決め込んだ。


「うちのが迷惑を掛けた」


 こんなところで謝られても困る。

 裕也はカバンを抱え込んでひたすら無視を決め込んだ。

 都心のシェルターに逃げ込めば、1組のアルファは諦めたのか気配が消えた。


「どうしましたか?」


 シェルターの職員が満面の笑みで出迎えてくれた。


「まだ発情期迎えてないんだ。高校生でちょっと心配だね」


 裕也に発情剤が効かなかったのは、発情期をまだ迎えていなかったからだ。


「家庭環境に問題はないのよね?」


 職員に聞かれ、裕也は首を振った。


「あるよ。大あり」


 ようやく話を聞いてもらえた。


「ええ、と」


 裕也の話を聞いて、職員は混乱した。

 発情期用に用意した鍵のかかる部屋は、番の両親が毎晩使っていて、裕也の食事のために家政婦を雇っていたのだ。

 火を使うのは危ないからと、冷めた食事は電子レンジさえ使わさて貰えない。と言うではないか。高校生にもなってありえない話だった。

 裕也の家庭環境を聞いて、職員は狼狽えた。

 全てのオメガに対して平等をうたうシェルターなのに、支援先の圧力に屈しているだなんて。

 確かにシェルターは国営で、職員は全員国家公務員だ。だが、税金だけではままならないため、良家からの支援はあった。

 裕也の父親は、良家の分家だから、表立ってはいないけれど、支援者の1人だったのだ。

 おかげでどんなに頼んでも、裕也はシェルターに保護して貰えなかった。

 ここでようやく裕也はシェルターに保護して貰えたのだった。


 だが、保護者には連絡が入る。


 裕也は自宅に帰ることを拒否した。もちろん両親に会うことも拒否だ。

虐待はされていないかもしれないが、立派なネグレクトだろう。高校生になっても発情期の来ない裕也を診察に連れていかないのだから、

 ついでに言えば、母親からはいつも睨まれている。

 裕也を自分の番に近づくオメガと認識しているのだ。だから見ることも嫌だし世話などするわけがなかった。そんな居心地の悪い家になど居たいと思うわけが無い。

 裕也はシェルターにこもって、学校を休んだ。

 両親からの連絡も拒否した。


 ある日、裕也は外の空気を吸おうと平日に隣接するショッピングモールを歩いていると、懐かしい匂いがした。


「兄さん、どうしてこんなところにいるの?」


 双子の弟浩也だった。


「逃げてきた」


 弟浩也のフェロモンが裕也を優しく包み込んだ。

 浩也はアルファ、優秀なアルファだけが通う私立の学校に小学生の途中で編入している。

 弟である浩也が家を出てから、裕也は両親から世話をして貰えなくなったのだ。


「兄さん、俺と一緒に暮らそう」


 アルファの弟浩也は、オメガの制度を最大限に利用してくれた。


「こんなところよく借りれたな」


 駅チカのマンション。ファミリータイプの日当り良好、発情期対策もバッチリだ。


「オメガ専用マンションだよ。オメガ1人につき成人アルファは1人しか住めない」


 つまり番のアルファとオメガが住む専用という訳だ。


「俺ら番じゃなくて双子だろ」


裕也が困ったように言うけれど、浩也は笑うだけ。


「それにほら、俺まだ発情期きてないし」


裕也が困ったようにそう告げれば、浩也は裕也を優しく抱きしめる。


「だって兄さんの運命は僕でしょ?」


 そう言って、浩也は裕也の項をそっと撫でた。そこには生まれた時から消えないアザがある。


「だって、産まれる前に僕が噛んじゃったからね」

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双子のオメガの番 ひよっと丸 / 久乃り @hiyottomaru

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