人間の星

ん?

ここは、

どこだろう?


私は目覚めると、

あたりを見回した。


たくさんの人影が動いている。

どうやら私は、

人間の女性に転生したようだ。


ということは、

ここは人間の星。


魔女たちが、

人間狩りをするほど恐れていた、

あの人間に私は転生したのだ。


そして、

幸運なことに、

私は女優だった。

名前は椿つばきアリサ。


なぜ幸運かというと、

私は魔女の星で、

騙し合うこと、

演じ合うことには、

慣れっこだったからだ。


私は、

コツコツと、

オーディションを受けていった。

すると、

朝ドラのヒロインに抜擢された。


それから私は、

またたくまに、

スターダムにのしあがり、

またたくまに、

国民的女優と呼ばれるまでになった。


そんな有頂天の日々を送っていたとき、

奇しくも、

舞台の主役として、

魔女の役を演じることになった。


こんな運命があるだろうか。

こんな奇跡があるだろうか。


魔女の星で生まれ、

魔女の星で育った私は、

この役を見事に演じ切った。


「迫真の演技に感動した」

「本当の魔女かと思った」

「魔女に憑依していた」などなど、

反響はものすごかった。


ところが、

「本当に魔女なのでは?」

そんな誰かの冗談めいた投稿から、

人々は私の中にくすぶっている、

魔女の匂いに感づき始めた。


そしてそれは、

またたくまに炎上した。

それはまるで、

ネット上での公開の火あぶりの刑だった。


しかし、

それだけなら、

まだ良かった。


ある日、私は、

公権力に、

魔女の疑いで逮捕されたのだ。


そして、

私の魔女裁判が始まったが、

陪審員全員が、

魔女狩りの刑、

すなわち火あぶりの刑で一致したのだ。


私は、

人間たちに取り囲まれた、

魔女狩り専用の広場に連れて行かれると、

魔女狩り執行人たちに、

立てた木の棒に括り付けられた。


(ああ、

なんということだろう。

魔女の星では、

人間狩りに遭って、

人間の星では、

魔女狩りに遭うなんて)


私は自分の悲運を呪ったが、

いつものことなので、

余裕を感じていた。


だいじょうぶ、

だいじょうぶ。

私には伝家の宝刀があるんだから。


私は早速、

ここから脱出するために、

あの転生の魔法を心の中で唱えた。


(バビロ・ビロロン!)


しかし、

転生は起こらなかった。


(なぜ?

どういうこと?)


私は混乱したまま、

再び転生の魔法を心の中で唱えた。


(バビロ・ビロロン!)


しかし、

やはり転生は起こらなかった。


(なぜ?

どういうこと?)


私は動揺した。


(もしかして、

転生の魔法のエネルギーが、

枯渇してしまったのだろうか)


(もしかして、

永遠に使えると思っていた、

転生の魔法は、

3回限定のものだったのだろうか)


そんな私の動揺を、

魔女狩りの刑に晒される動揺と勘違いした、

魔女狩り執行人たちは、

シリアルキラーのように笑っていた。


やがて、

魔女狩り執行人たちは、

私にガソリンをかけた。


(ああ、

結局、こうなる運命なのね)


(でも、

人間たちは意外と鋭かったわね。

私の奥底で燻っている魔女の気配を嗅ぎつけたんだから)


(私は確かに魔女。

人間と間違えられて、

火あぶりの刑に遭うよりも、

魔女と認識されて、

火あぶりの刑に遭うほうが、

よっぽどマシよ)


そうして、

魔女狩り執行人たちは、

マッチを擦ると、

ガソリンまみれの私に、

そのマッチの火を着火した。


私は、

燃えさかる炎の中で思った。


(もしかしすると、

魔女たちが恐れていたのは、

人間の愚かさでは無くて、

人間の慧眼だったのかもしれない)


魔女の肉体は、

可燃性が高いのだろうか、

私は、

むらさき色の煙を、

竜巻のように巻き上げながら、

99分の間、燃え続けた。


魔女狩り執行人たちと、

この広場を何重にも取り囲むメディアや野次馬たちの、

魔女よりも魔女めいた、

悪魔よりも悪魔めいた、

カメラのレンズと好奇の視線を浴びながら……。

















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転生の魔法バビロ・ビロロンの魔女  滝口アルファ @971475

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