第6話「夢の轍」


──七年後、九キロ先、私は先生を止めた。


先生は最後になって七号のフリを辞めて、私に聞く。

無限に広がる並行次元にとっては、些細なことで、むしろどうでもいい事なのかもしれない。

それでも先生は最期の意思表明として聞いたんだ。

私もそれに一等大切な答えを添えた。


きっと私はあの感触を忘れることは無いんだろう。

最期の声と、息と、温度。

波に攫われても、流される事は無いんだろう。


突然何かが舞い落ちてくる。

一枚の封筒。

私は無作為に封を開け、紙を取り出した。

そして目にしていく内に、私から滴り落ちるものがあった。



──拝啓キョウカへ。


元気にしているかな。

僕はもう元気にしていないのかな。

この手紙が届いたという事はね。


キョウカには感謝してもしきれない。

事情は何となく知っていたからさ。

キョウカが別の次元から来たことも何となく分かった。

科学者の使い道のない勘ってやつだ。

僕は理想のために、何かとんでもない事をしたんだろう?

全部お見通しだよ、なんたって僕の事だからね。


もっと一緒に過ごすべきだったね。

本当に申し訳ないと思ってる。

多分違う次元の僕もそう思ってるさ。

だから僕はキョウカに一つの思い出として質問をするだろう。

今ならその質問が何なのか、分かるよね。

僕が答えを聞けたかは分からないけど、僕は応えたい。


今までありがとう。

きっと忘れない。

今までのことも、これからの事も。


それと一つ、キョウカに教えるべき事がある。




遠回りをするためには、エンドロールを最後まで見るべきだ。




──君の先生、レント・アレグロより。



「ははっ…。先生らしいや」


これこそがエンドロールを最後まで見る理由で、大掛かりな冗談なのかもしれない。

理想のエンディングかは分からないけど、理想のオープニングで、全ページが名シーンでイメージ通り。

これから描画される景色は先生の理想になるのかな。


私は私のドラマを閉じ、歪で不安定な場所でまた一つのドラマを死ぬまで続けるんだろな。

エンドロールを見るためにね。


「そうでしょ、先生」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メメント こもり @TyIer

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ