第5話「明晰夢」
「もう食ったのか?」
「うん、お腹いっぱい」
「そうか」
タバコを地面に投げ捨て、足で踏み潰す。
「これからどうす………」
「ドウマとは別行動になるかな」
「…-ああ、そうか…分かった」
少しの間はあったものの、以外にも引き留められなかった。
「それじゃあこれやるよ」
そうして私の手のひらに一丁の銃と一つの弾倉、僅かな金を。
「こんなご時世だからよ、野暮な事は聞かないでおいてやる」
「ありがとう、助かる」
「またどっかで会えるといいな」
「そうだね。…きっと近いうちに会えるよ」
「じゃあもう行くね」
「ああ、またな」
私は道路の傍を歩き出す。
どこかの空は灰色なのかな。
そんな事を考えながら歩く。
それから数日間、休み休み、荒れた帝都を目指す。
「やぁキョウカ」
私を呼ぶ声が後ろから聴こえる。
振り返るとそこには彼が居た。
「…私を殺しにきたの?」
少しの懐疑と、少しの怒りと、少しの情の目で彼を見る。
「ははっまさか。違うよ違う、ただ伝えに来ただけさ」
「何を?君に教わる事はもうない」
「…君、かぁ。もう先生とは呼んでくれないのかな」
「ふざけてるの?」
彼は軽く笑い飛ばす。
その仕草はいつものあの人だった。
「いやいや、至って真面目、真剣だ」
「話を戻すと、僕は死んだ。それを伝えに来た」
「いい加減にしてよ。ふざけないで」
「だから僕はふざけてないよ。本当の事を言ってる」
「じゃあなんで動けてるの?今私の目の前に居る君がクローンなのは知ってる。でもそれはオリジナルの操作がないと動けないでしょ?」
「やっぱりキョウカは駄目だね。ダメダメだ」
「この前撃ち殺したクローンはプロトタイプさ。分かりやすく首元に06って書いてあった筈だよ」
「じゃあ目の前の君は?」
「僕は完成形七号だよ」
そうして彼は首元のマークを見せる。
7という数字を。
「オリジナルはね、死ぬ前に僕を完成させたんだ」
「自律プログラムを組み込んで同じ思考を持たせた。だから今の僕はオリジナルそのもの…とは言えないけど限りなく近いものに成っている」
「…で、なんで死んだの」
「まぁまぁ、そんなに急かさないでよ。僕も隣座っていいかな」
私は無言で頷き、私が木陰からはみ出ないように僅かに間を空けた。
「オリジナルは理想郷を作るがために全部を均して、もう一度作ろうとした。その均しは思うようにいかず、全部は均しきれなかった結果中途半端になった」
「…そうだろうね、生き残りは案外居たし、範囲も狭かった」
「でしょ?だからオリジナルは試行回数を増やせるように最終兵器を作ったんだ」
「最終兵器って?」
「無限の並行次元へ行ける機械。さしづめタイムマシンのような物かな。オリジナルは不可能だったものをたった三日で作り上げ、そうして無数の選択肢が広がる宇宙へ飛び出した」
「それがどうして死ぬことになるの?」
「それがね、本来観測、干渉できるはず無い次元へ沢山行き来した結果、量子が縺れて…何も存在しなかった並行次元に降り立ったんだ。そしてオリジナルは泡のように消えて、死んだってわけ」
「…全然理解できない」
「だろうね、クローンである僕ですら、理解出来てない事の方が多い」
「じゃあ君は本当に死んだんだ」
「うん、そうなるね。オリジナルはもうどの次元にも居ない。完全に消滅した」
「あははっ、なんか、馬鹿らしい。馬鹿みたい」
「…………」
彼は何も言わず、ただ私の隣に座り続けるだけだった。
強い日差しが影を動かし、私の体を照らし出す。
「キョウカ、一つ頼みがあるんだ」
「…なに」
「最終兵器を使って、指定した一つの次元へ行って欲しい」
彼は真剣な眼差しで、何かを決心したかのような顔で言った。
私はそれを受け入れる他無かった。
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