第2話 女神様?
あ、これ、もしかして私、明日会社行かなくても良い?
ラッキー!
しばらくあのハゲ課長にいびられなくても良いって事じゃん。
っていうか、ここどこ?
「気が付いたようね。自分の名前はわかります?」
声のした方に顔を向けると、一人の女性がゆっくりと歩いてこちらに近づいて来ていた。
看護師さん?
いや、違うな。看護師さんって、もっと髪を束ねてて、ナース服っていったっけ、白とかピンクの厚手のワンピース姿だもんね。
この人の服装は……一瞬バスタオル一枚なのかと思ったわ。何、この服。胸から尻までのワンピ―スって。
って、スカート短っ! 前髪のカール凄っ! 眉毛太っ! 香水臭っ!
「どうです? 徐々に落ち着いてきた頃かと思うんですけど。名前、思い出せます?」
「はい……夢野真穂です」
「そう、真穂さんっていうの」
目の前の女性は、ウサギの尻尾のようなふわふわとした毛が付いた派手な扇子をひらひらと舞わせている。
なんだろう?
高飛車な口調から、どこか馬鹿にされているような印象を受ける。目の前の女性が扇子をひらひらさせる都度、苛々が募ってくる。
「あの、すみませんが、どちら様でしょうか?」
「私? うふふ。内緒。きゃはっ!」
……何この人、ムカツク。
「きゃはっ」とか言うような歳? 若作りしてるだけで、かなり行ってるでしょ、この人。口の横、ほうれい線がくっきりだもん。目尻のしわも凄いし、首のしわも何本も入ってて。
「えっと、それでは私はあなたの事を何とお呼びしたら良いんでしょうか?」
「そうねぇ。じゃあこう呼んで。『女・神・さ・ま』って」
うわっイタぁ! この人、イタいよ! 『女神さま』? 馬鹿じゃないの? 良い歳して何言ってんの?
「えっと……女神さま」
「はい、なにかしら? ……ん? どうかして?」
「……いえ。あの、ここは、どこですか?」
「ここは死後の世界よ。あなたが望むなら死んだシーンを見せてあげるけど、見たい? あなたの場合、トラウマ級の結構なグロ映像になっちゃうけど」
……なんか、しれっと凄い事言われた気がするんですけど! っていうか、やっぱ死んだんだ私。何となくそんな気してたんだよね。
「えっと、では、私はこの後どうなってしまうのですか?」
「それをこれから面談して、この中から決めるのよ」
あれ? あんなバインダー、どこから出したんだろ? ……まあ、死後の世界とか女神とか言われている時点で、何が起きても不思議じゃないか。
「ねえ、死者を導く死神なんてどう。死にそうな人の所に行って死者を引っ張ってくるだけの簡単なお仕事なんだけど。相手を間違えなければ怒られないし、ノルマはあるけど、比較的――」
「ノルマのある仕事は嫌です! 絶対キツいノルマを強制されて詰む事になるのが目に見えてますから」
「あら、そう? 最近多いのよね。そういう事言う人。じゃあ、こんなのはどう? 路傍の石になるの。最近、根暗そうな男性に大人気なのよ。女子高の校庭の石が良いなんて、生き生きした目で言われてね」
死んでまでそんな事願う人がいるんだ……しかも大人気なんだ……
「あの、もっとまともなのは無いんですか? というか、男性じゃなく女性に人気の仕事を紹介してもらえませんか?」
「そうねえ。あ、そうだ! 最近女性にもの凄い人気なのがあるわよ。えぇっと、あった! 地獄の鬼の情婦! これなんてどう?」
「何するんですか? それ?」
「何って、鬼に毎晩可愛がってもらうのよ。ムキムキマッチョに可愛がってもらえるって、最近女性に大人気なのよ」
……どいつもこいつも自分の欲望に正直すぎてドン引き。
はぁ……
思わずため息が漏れる。
そんな私を見て、女神様は眉を寄せて少し困り顔をする。
「困ったわねぇ。じゃあ、まず聞くんだけど、真穂さんは、ここで働くのと転生するの、どちらを希望するの?」
「それは……転生でしょうか。でも前世みたいに、上司にいびられて精神的に追い込まれるのは嫌です。もっと、その仕事が自分の力になって、変な上司がいなくて、それでいてやり甲斐のある楽しい仕事が良いんですけど」
女神の視線が、露骨に『めんどくせえ女』と言ってる。そんな目をされても、自分の希望はちゃんと伝えないと、結果的に苦労させられるのはこっちなんです。
「そうねぇ。そんな非現実的な……あ! そういえば忘れてたけど、ちょっと前に、あなたみたいな希望をした方が、嬉しそうに選んだ道があったわね。すっかり忘れてたわ」
「どんな仕事なんですか?」
「どんな……えっと、どこだったかなぁ。あった、これだこれだ。モンスターを倒してレベルアップしながらダンジョンの最下層に挑む、みたいな仕事よ。モンスターから獲得できる素材で生活するのよ。どうかしら?」
「……まさかと思いますけど、身一つでそんな危険なところに放り出されるんわけじゃないですよね?」
女神様がその若作りの化粧をした顔に貼り付いた笑顔を歪ませた。人ってこんなにわかりやすく顔を引きつらせる事ができるんだね。知らなかった。
「じゃあ、別のところにしましょうか。そうだ、閻魔大王の第三秘書が空いてるから、そちらにしましょうね。閻魔大王はかなり神経質な方で、いつもピリピリしてるけど、あなたのその性格なら耐えられるでしょ、きっと」
さあっと血の気が引いて行くのを感じる。ほんの少し想像しただけで胃がキリキリ傷む。絶対ブラック企業じゃん、そんなの。
「あ、先ほどのところで! 私、さっきのところにします! いえ、さっきのところが良いです!」
「そう? でも、危険なとこよ?」
「いえ、そちらで!」
女神様が口元をにやりとさせる。
悔しい……完全に手玉に取られてしまった……
「わかりました。では先ほどのところで。でも、危険ですからね。あなたには魔法を使える能力を与えます」
「へ?」
あれ?
ぐわんぐわんと目の前が揺れる?
何これ?
「良く聞いてね。『ミラクル マジカル ラララララ!』手にしたマジカルスティッキを振って、そう唱えなさい」
え?
みらくる?
え?
「詳しい事は使い魔に聞いてね。では、お達者で!」
え?
え?
ええ?
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ノスタルジック・ダンジョン 敷知遠江守 @Fuchi_Ensyu
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