心霊が全く出てこないけれど、極めて良質なモダンホラーの傑作

 異世界ファンタジーとホラーの書き手、朱さんの代表作です。それに相応しい、とても良質のモダンホラーだと思います。
 ストーリーは、私有地である山で妻子をひき殺されてしまった男が、四十九日を契機に山に戻ったところ、マナーの悪い若者らが川沿いを荒らしているところに遭遇し、注意したものの暴行を受けたことにより、感情が静かに暴走し始める、というものです。
 そして復讐を誓った彼が、とった行動は?

 朱さんが、京都府北部の山間で実際にお聞きになったお話が元になっているとのこと。その分、リアルな人間の狂気と言ったものが伝わってきます。また一つ一つのシーンの書き方がとても丁寧で上手です。確かな筆致で、マナーの悪い若者らがキャラ付けられ、また主人公が無意識に柵の上に跨って呆ける様子など、なんとも胸にジトーっと迫ってくる描写が見事です。
 
 心霊など一つも出てこない、だけど静かに燃え始める人の狂気に、一度読み始めたら離れられなくなる、握力の強いお話だと思います。
 
 まだお読みになられていない方は、是非どうぞ。
 

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