じれったさが癖になる心理戦ラブコメ
- ★★★ Excellent!!!
一見すると「実力隠蔽系ラブコメ」というジャンルの王道。しかし、この物語の本当の面白さは、主人公のひねくれた自己認識が生み出す、独特の心理戦にあります。
物語の軸:主人公の意図的な「勘違い」
主人公の早見連は、ただ能力を隠しているわけではありません。彼は「親友の羽瀬川蒼太を主人公にする」という確固たる目的のため、自らを完璧な「友人A」と定義し、物語の舞台裏から全てを演出しようと試みています 。
この特異な哲学が、物語の「じれったさ」の根源です。彼は、ヒロインたちが自分に向ける明らかな好意さえも、「親友・蒼太に近づくための作戦」だと、自らの脚本に沿うように意図的に解釈を捻じ曲げてしまいます 。彼は鈍感なのではなく、自らの理想を守るために、積極的に現実から目をそらす「信頼できない語り手」なのです。
虚構の破壊者:後輩・白峰翡翠
連が築き上げた完璧な脚本を、鮮やかに打ち破っていくのが後輩の白峰翡翠です。彼女は、過去に何らかの接点があったことを匂わせるほど鋭く、連の演技を初対面に近い段階で「全部嘘ですよね?」と見抜いてしまいます 。
彼女の魅力は、ただ可愛いだけでなく、戦略的に連の心の壁を崩しにくる点にあります。連の姉と自然に打ち解け、そのまま泊まるという流れを作るなど 、彼のテリトリーに巧みに入り込み、「友人A」の仮面を一枚一枚剥がしていく様は、本作の大きな見どころです。
ここまで来ると彼女の好意にどう考えても気づきそうなものですが、前述した特異な哲学によって「親友・蒼太に近づくための作戦」に変換されるわけです。
新たな変数:生徒会長・真田椿希の視線
物語にさらなる深みと複雑さをもたらすのが、生徒会長・真田椿希の存在です。才色兼備の彼女は、連の脚本上では「主人公」である蒼太と結ばれるべき、いわばラスボス級のヒロイン。
しかし、その椿希が、なぜか脇役のはずの連に意味ありげな視線を送るのです 。連はその視線に気づきながらも「気のせいだ」と必死に自己防衛しますが、彼の計画がもはや破綻寸前であることを、椿希の存在そのものが静かに証明しています。彼女の視線は、連が自ら課した「脇役」という役割の矛盾を突きつける、無言の圧力として機能しているのです。
総評:絶妙なバランスで描かれるキャラクタードラマ
本作は、主人公の歪んだ思い込みが、魅力的なヒロインたちによって少しずつ溶かされていく過程を楽しむ物語です。じれったい展開にやきもきしながらも、その先にあるカタルシスを期待させてくれます。
ただのラブコメではなく、キャラクターたちの心理が巧みに交錯する人間ドラマとして、非常に読み応えのある作品です。この絶妙なバランス感覚こそが、本作最大の魅力と言えるでしょう。