永若オソカ
第一話「分離した過去を並べること。」
「ウチの家の炊飯器が置いてあった場所に生首があるわけ。どうしたらいい? いっしょに考えて」
クラスメイトの香山から、トンデモない相談を持ちかけられた。
司書は、天井をあおいだ。
遠賀野文庫を管理し、それらの本で様々なお悩みを解決してきた実績から、その中学生は司書というあだ名をつけられた。
きっと香山は、遠賀野文庫なら、この奇天烈な問題を解決できると信じているのだろう。
だから放課後に二人きりで話がしたいと申しでた。
だが、管理人である司書は、どの本の知識で香山の悩みが解決できるのか見当もつかない。
『生首がある』。『あった』ではないからまだ置いてある?
香山を観察する。無気力なタレ目。半開きの口。いつもどおりの顔つきだ。緊張感がない。真剣に悩んでいたら表情はもっと険しくなるはずだ。
ゲームか小説の話題で、友人のよしみで推理に協力してほしい?
しかし香山は『ウチの家』と言った。
「これは、なかなかに難しい問題だね」
そもそも問題が成立していない。
『なぜ人間は八本足か?』と同じ問題だ。疑問文は『なぜ』のあとに事実を示す文でないといけない。
なぜ生首が家にあるのか。
司書は、まだ友達の困っている現状を共感できない。
「どうして生首があると困るの?」
「その生首、喋るんだよ」
「そうなんだ。炊飯器が使えなくて困っているのかと思った」
「白米は太るじゃん。むしろなくてラッキーだが」
「そう? 米は腹持ちが良いぞ。雑穀米や玄米は食べたりしないの?」
この、誰とでも仲良くなれるスキルを持っている司書は、いつも通りに接する。
「まあ、米がなくても困らないケド、生首があると困るよね」
「喋るんだってね。悪口とか言うの? 嫌だねー」
「攻撃性はないから噛みついてこないよ。ただキミョーなことを言ってんの」
はじめから生首だけの生き物だったかのように平然としていて、落ち着いた声でこう言ったという。
──大切なアクセサリーを捨てた。いっしょに成り行きを見届けてほしい。
「ちゃんと目的があったから香山っちの家にお邪魔していたんだね。すでに捨てたものを見届けてほしいって、よくわからないけど」
「外に出ればわかるらしい。案内するから連れて行けって」
「『連れて行け』が本当の目的じゃない?」
『アクセサリーを捨てたから』や『成り行きを見てほしい』は口実なのではないか。
香山を連れて行くことが生首の目的のように感じられる。
どこへ連れて行くつもりなのか、じつに怪しい。
そもそもこの生首は、いったい何者だろう?
「その生首に見覚えはない? 香山と接点がないのに話しかけられるのは奇妙だな」
「ない。ないから、見知らぬ生首がある事態こそ異常をなわけよ」
奇妙な言い回しだ。見覚えのある顔なら首があってもまだわかるといったふうにも聞き取れる。
「その生首、赤いメガネをかけているの。フツー、そんな特徴の知り合いがいたらすぐ思い出すじゃん?」
「ずっと気になっていたんだけど、それってリアルの話?」
「まさか。本当に生首が家にあったら警察沙汰じゃん」
香山は当然のように首を横に振った。
A A A
架空の宮殿に記憶したいものを置く記憶術がある。
香山は頭の中に自宅を思い浮かべて、忘れたくないものを保管している。
大切なぬいぐるみ、きらびやかなアクセサリー、姉が使っていたネイル、おもちゃのオマケのペンダント。
とにかく、オシャレで可愛いものしか置いていない。
「ああ、なるほど。それはたしかにおかしい」
話を聞いていた司書は、違和感に気づいた。
ようやく『困っている』を共感する段階にたどり着いた。
記憶の保管場所に知らないものが保管されている。ここがおかしい。
見ず知らずの首が配置され、わけのわからないことを口にしている。
首の言動は、香山の頭の中で香山の理解をこえている。
「マジでなんだよ、この首ってカンジ。司書はどう思う?」
「そうだね……。強いて挙げるなら、オカルトと脳科学のどちらかじゃない?」
司書は神妙な顔で言った。
だが香山は、司書が上げた二つの推測をよく咀嚼できていない顔をした。
「オカルトだと、どうなる?」
「霊感テストでさ、頭の中の家に誰かいたら、本当に霊が自宅にいるって説ってあるよね? 似てない?」
「え、ヤダ。脳科学は?」
「たとえば水を飲みたいとするでしょ? 普通は『飲みたいから飲む』なんだけど、脳みそが体に司令を出して水を飲む方向に動き出してから、水を飲みたいという意識が発生する」
「動きに理由づけしたものが意志?」
香山は「意味ワカンネ」と言った。
もしその脳科学の説が正しいと、意思決定は本当に自分がおこなっているのか疑わしいことになる。
運んでもらうために生首なのか。
香山を外へ連れ出すために香山の家にあらわれたのか。
本当は、誰が外へ出たいのか。
「つまり、生首の正体は脳みそなのですね」
「それもオカルトじゃん。マジでムリ」
「オカルトかなあ?」
「とり憑かれているのかも。だって、外に出たいとは思っていないから」
「そっか。とにかくジャマなわけだ」
つまりこの生首を消去したいと香山は望んでいる。
イメージの世界でどこまで融通がきくのか気になるが、捨てられそうにないのだろうか。
「でも家にあってもジャマでしょ? だからゴミ捨て場に持って行くわけよ」
「外に出たんだね」
「橋を渡ろうとしたら、紫の牛がいるの。これも身に覚えのない牛」
そして香山は過去の頭の話を振り返る。
夢ならまだしも、頭の中のイメージは、体験や思考や潜在意識が反映されるのだが、家へ出てからの出来事は香山の記憶に一切関与していなかった。
まるで、誰かの思考をたまたま受信したようだ。
A A A
橋に牛がいた。紫の牛だ。川を見下ろしていた。
その小さい橋の幅がちょうど牛の体に合っていた。つまり通せんぼしているのだ。
動く気がないのなら強制しない。別のルートを考えていると──運んでいた
『たからものを落としたの』
それは、川を見つめている紫の牛を代弁したのだ。
『……探しに川へ降りないの?』
香山が尋ねると、首が喋り出した。
『うん。もう、いらないものだから』
『じゃあここでじっとしても時間の無駄じゃん。時間は有限なんだから、進まないと』
『わかってる。その前におわかれをしっかりしないと。ここを適当にすると進めない』
『そっか』
香山は踵を返し別の道を進んでいると、紫の牛が向こうから歩いてきた。その紫の牛は無地の服を着用していた。
すると生首が喋り出した。
『こっちの方が似合うでしょ?』
たしかに、
似合う。それが適切な返事だ。紫の牛だってその言葉を待っている。
『でも、牛が服を着てんだよ。せっかく、服を、着ているんだから……着たい服を着たいじゃん』
『でも、いつまでもフリフリの可愛い服を着られるわけじゃないよ。わかっていたんだ、ずっと前から』
『なんだか、悲しいね』
勝手にイメージを決めつけておいて、その人の
本心と他者のイメージに溝があると嘘をつかなければならない人はたくさんいる。
内と外は違うと、
星図。
内側(地球から空)から見るぶんにはかまわないが、外側(宇宙から地球)から見てもその星座が同じように見えるとは限らない。
でも星なら、融通はできるだろう。
しかし心は星ではない。融通は効かない。
自分以外の大勢にいちいち訂正するのは苦労するし、心が疲弊する。
周りに合わせた方が賢い。
『それでも、まだ似合うのにね』
香山が本心でそう言うと、紫の牛は「ありがとう」と言った。
『それでも、間違っているから』
『間違って感じていると考えることができるだけだよ』
『そのままでいいのに』。その言葉は、『らしくない』と同じレベルで無責任な刃だ。
今さら慰めにもならないことを言っても困らせるだけだ。
しかし紫の牛とすれ違ったあと、また紫の牛と出会った。
もう服を着ていない。いやそんなことより、悲しみに暮れている。牛の顔なんて見分けがつかないが、なんとなく伝わってくるのだ。
『失敗しちゃった』
もっと早く死ぬべきだった。
そう解釈できる一言に香山は背筋が凍った。
『誰だよ、そんなこと言わせたの……。マジ最低じゃん!』
『ち、違うよ。そんなことを言ってほしいわけじゃなくて……! ごめんね。怒らせるつもりはなかった。一緒に呆れてほしかったのかな』
『そんなのイヤだし。ねえ、殺しちゃダメだからね! 自分で自分をけなしても惨めになるだけだよ!』
紫の牛がとんでもないミスをおかしてしまい、死にたくなるほど後悔しているように感じた。
香山は、どうにかして紫の牛を支配する否定的な感情を打ち消さなければならないと焦っていた。
この否定は、時として心を殺す。
香山だからわかるのだ。
しかし紫の牛は『ごめんね』と謝るだけで、香山がいくら励ましても沈んだ心は動きそうにない。
やがて牛の輪郭の紫色が透けていき、霧のように消えてしまった。
『……!』
たからものを捨てて、好みじゃない服を着せられ、うまくいかなかった。
次に会う紫の牛はどうなっている?
そこまで考えて、香山は家へ戻った。必死で走った。到着するまで牛に出会わなかった。だが二度と外出はできそうにない。
『大切なアクセサリーを捨てた。いっしょに成り行きを見届けてほしい』
『いや無理だって!』
香山は喋り出した生首が憎らしくなった。
A A A
「……と、いうわけ。だから生首は今も家の中にあって、マジ困るんだわ」
「それは……困るね」
かなり複雑な内容だ。
ただ素性の知れない生首を捨てればいいだけの話ではなくなっている。
「紫の牛はまだいるの?」
「いるよ。外に出れば、きっと会う」
「香山っちは家に入った。見えない牛は存在するの?」
「するに決まってんじゃん。見えなくとも、牛はいる」
他人がどう言おうが、香山が牛の存在を認めている以上、記憶の町に牛はうろついている。
牛なんて否定すればいいし無視すればいいのだ。
だが、心に留めてしまった。存在を認めてしまった。だから存在する。
「よく考えてみてよ、香山っち。牛でしかも紫なんだよ。そんなのあり得る?」
「あり得るよ。だってこの世の烏は全て真っ黒じゃん。だから紫色の牛は、全ての烏が黒いことの証拠であるんだよ」
香山はさも当然に答えた。残念ながら香山にとって牛が紫であることは論理的にありえるらしい。根が生えていると簡単には動かせない。
「つまり香山っちは、全ての烏が黒いということは、紫色の牛が存在する証拠にもなると言いたいんだね」
「ヘンペルのパラドックスだよ」
「紫の牛がいたことで全ての烏が黒いことの証拠になるの? いまだ信じられないなぁ」
ここで司書が存在を不安定にさせていればよかったのだが、かえって輪郭を浮き彫りにさせてしまった。
「牛といえばアレよ。心の平穏を牛と牛飼いで表した絵図」
「十牛図ね」
「悟りを開いていない身としては、せっかく手懐けた牛がいなくなっても気にしないっていう部分が納得いかないんだよね。なんとなく行方が気になっていたから、牛が現れたのかね?」
「え、そうなの?」
この『そうなの?』は『納得いかない』にかかっている。
香山はアクセサリー作りが趣味で、せっかく完成したアクセサリーを簡単に誰かにあげる。
本人は「作るのが好きだし、所持していても変に思われるから」と執着していない性格なので、自分と関わりのない牛がいなくなっても気にしないものだと思っていた。
「そりゃそうじゃん。助けてくれないアクセサリーと友達になってくれる牛は全然違うし」
「そういうものか」
「でも、なんで牛が侵入してくるかね。豚の方が納得いくんだけど」
この『豚』は司書に教わった『満足する豚よりは不満足な人間の方がましだ』からとっている。
幸福は量より質であるという意味で、ある哲学者がとなえた。
香山はアクセサリーに興味があるが、入手しようとは考えない。そのかわり、これまで作ってきた力作を記憶の自宅に保管している。
「あー、なんか司書と話していたら、情報が整理ができるようになってきたかも」
「なにか、わかったの?」
「あれは、自分かもしれない。好きなものを手放して、周りの人に納得してもらえるように振る舞うところとか共感できる。次の失敗はまだだけど。これから起こるのかな? 頑張ったつもりだったのになあ」
「いや、あれは過去だよ」
司書は断言した。
きみが出会った紫の牛はきみ自身じゃない。
すでに起こった出来事だ。
A A A
かつて司書から時間の哲学について講義を受けた過去がある。
ある哲学者によると、時間の瞬間ごとはバラバラでも自分の中でそれらをつなげて
ある本では一連のメロディにたとえ、新たな音が加えられると全体が変わってしまう性質を有すると書いていた。
過去を思い出そうとしているのは人間で、その人間の思考やこれまでの経験で過去の見方は変わってしまう。
つまり「記憶」は過去の出来事そのままではない。
そう考えると悲しい記憶や辛い経験さえも、自分で今作っているので否定できてしまう。
「順番が逆だよ。まず大失敗をおかして、自分にふさわしい格好をするように気をつけた。心の整理がついて川に捨てようとした」
「逆?」
「橋にいた紫の牛は、現実の出来事とは異なる。たしかに捨てられる予定だったけど、たまたま居合わせた人が引き取ってくれたんだ。それでも、宝物を捨てた事実に変わりはない」
なぜか訂正できる司書を、香山は目が離せなかった。
嘘はついていない。
なぜ、そう言いきれる?
「哲学者が子供達の質問に答えるって本があるんだけど、その中で過去についての意見がじつに興味深かったんだ」
香山の表情を読みとり、さらに司書は過去について語り出した。
たとえばラーメンを食べた昨日を思い出そうとする。それは想起であって知覚じゃない。過去のラーメンは食べられないから。
だけど友達が「君はラーメンじゃなくてカレーを食べていた」と指摘したら、どっちが正しいのだろう。
ポケットにレシートがあれば「物証」による確認ができる。
別の友達が「ラーメンを食べていた」と言えば「証言」が得られる。
「したがって過去は個人の記憶の中ではなく、根拠に支えられた共同の記憶の中にある」
「共同って……つまり、かつて実際に起きたことだと証言できる人がいると?」
そんなのありえない。
現実に日本語を喋る牛なんていたらすでに噂がたっている。
それとも、複数人が同じ幻覚を見ていたというオチだろうか。
みんなの見ていた幻覚が、今度は自分の頭に登場したとでもいうのか。
「ひどく落ち込んでいる過去は萩原っちで服装を変えてみた過去は井澤っちが証言してくれる。橋のやりとりは……匿名でお願い」
「ちょっとタンマ。さすがに現実ではありえないでしょ。牛が喋るわけないじゃん」
「そこも訂正。実際は牛じゃないよ」
椅子に腰掛けていた司書は立ち上がった。
そして深々と頭を下げた。
「ごめんなさい。香山っちが譲ってくれた素敵な髪飾りを、捨ててしまいました」
謝罪するために。
A
香山の
ダイニングテーブルの上には「
今のところ、香山は無傷だ。
この趣味が
最近はヘアアクセサリーばかり作っている。どれも「犀の角」と名づけている。
本当は無視するつもりだったが、司書に頼まれたのでタオルに包んで見せにいく。
向かう先は
犀のようなあの人が、
橋の上にいた紫の牛はいなくなっていた。偶然なのか意図的なのか、外に出てから牛に一度も会わなかった。
「
踏切にいたのは、
踏切にいけば
「この格好で
「
浅く広く付き合う司書が特定の誰かと特別の関係を築くのは以外だった。だが、もっと意外なのは恋人が司書に放った発言だ。
「
「
「
「
「誤解しないでほしいのだけど、
「……
「
「
「やっぱり香山っちも女の子らしい僕がお好み? たまにいるんだよね、残念がる人」
「んー? 趣味が同じだから仲間意識をいだいていただけだし?
A
「それじゃあ、和解したところでボクに代わってもらいましょうかな」
生首を包んだタオルがしゃべりだした。まるで血が全体に行き渡っているかのように、ハキハキとした声だ。
「こんにちは、遠賀野文庫の管理人さん! ウワサを流す張本人として、キミに伝えたいことがあるんだ!」
「元気な生首だなあ。こんにちは」
自分から噂を流すと告白する人に初めて出会った。
中傷に慣れている司書は、悪意のない声に内心驚いていた。
噂というのは、何も知らない第三者が面白がって広げるものだと思っていただけに、ただ報告するだけの生首がとても珍しい。
「あなたは正しくあろうと改変していますよね? ところが、その努力を間違って受け取る輩がいるわけですよ。本人の意思で変わろうとしているのに、世間や心無い批判のせいで殺されたと思ってしまうのですね」
「あれ? ウワサうんぬんは?」
「関係していますよ。つまりこれから、あなたを心配する人やあなたのファンの未練によるウワサが流れますってこと」
「そんな馬鹿な」
司書は信じられなかった。
なぜなら司書の周りには、馬鹿にしたり面白がったりする人ばかりで、ファンなんていない。
そんな司書に首は同情的だった。
「自分の好きを貫くために、自分に向けた矢印をシャットダウンしていたからファンが見えないのですね。でも、そのうち会えるでしょう」
見えないままでよかったのに。
どうせなら、ずっと無害なままでいてほしかった。
「誤解が招いたウワサです。訂正するかそのままにするか、キミに任せます」
「みんな好き勝手にいろいろ考えるねぇ。とりあえず了解した。頭の片隅に置いておくよ」
いつの間にか、首を包んでいたタオルがペタンコになった。
生首はいなくなった。あの生首は牛の翻訳機でもあった。アクセサリーの件を聞いたので紫の牛もいなくなる。
町に平穏が訪れた。
A
そして香山の意識は記憶の町から現実の教室へ移動する。
現実の司書は推理小説を読んで待っている。
「……恋人いたの?」
事実を知った第一声があまりに無神経だが、他になんて言えばいいのか咄嗟に思い浮かばなかった。
司書はなんでもない顔で本を閉じた。
「なぜ過去形? ただいまリベンジ中……と思っているんだけど、あの子は思っているのだろうね。今でもしゃべったり放課後や休日にお出かけしているけど」
「よく否定されたのに仲良くできるよ」
「否定されたの?」
苦笑いの司書を見ていると香山は何も言えなくなった。悲しみが広がる。
「香山っちにもらった大切な髪飾りを捨てたんだ。ごめんね」
「形あるものはやがてなくなる。たからものは頭の中に保管しているから」
「生首さんはどうなった?」
「いなくなったよ」
香山は頭の中の出来事を報告した。
「ウワサねえ。とりあえず頭の片隅に置いておくよ」
まったく同じセリフを司書はいった。
「その時が来たらどうするの?」
「いったん対話をこころみる。それでも心が動かないなら放っておく」
「誤解されたままでいいのかよ」
「わかりあうなんて不可能だ」
たとえば「こうしたい」という主張を伝えたとして「わかったけどそれはダメ」と言われたとしよう。
その時『気持ちをわかってくれない』と思うかもしれないが、この『わかる』は『知る』ではない。
求めているのは『尊重する』や『許可する』だ。
いろんな考え方をもつ人がいる世の中で、すべての人間に許されようだなんておこがましいにもほどがある。
「私見を押し付けるほど傲慢じゃないよ」
「傲慢って……自分の意見を言うことは当たり前の権利じゃね?」
司書は諦めている。
そもそも意見を聞いてくれるとは思っていない。
だって味方は一人もいないから、と判断している。
「あのさ、司書が思っているより味方はいるからね?」
「そうなの?」
「だって性別が男で、可愛いものが好きって堂々しているから。ある意味希望なんだよ」
自分だってその一人だ。
「
司書はケロリとしていた。いつものように心を麻痺させて、悪口に傷つかないモードに入っていた。
だから香山の言葉が届かなかった。
恋人の怒りは心に届いたのに。
それとも、これから変わろうとしている人には、香山の言葉はノイズでしかないのか。
司書に知られていない司書の味方が、このあと厄介ごとをおこすのだが、それはずっと先の話。
次の更新予定
永若オソカ @na0ga50waca
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。 の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます