「偽りの記憶」というタイトル回収やその謎が気になって仕方ない!
- ★★★ Excellent!!!
『Dual Hunters 〜偽りの記憶〜』は、まず読んでいて驚かされるほど世界観が緻密で、それでいてとても読みやすいSF作品です。
まずは、物語が動くまでに、作品の世界観が描かれていきます。
人間と見分けのつかない機械知性体「アンストロン」、それに対処する組織「セーラス」、浮遊する乗り物や亜空間収納などのSF設定が次々と登場します。
ですが、不思議と置いていかれる感覚がありません。
それは、この作品が「設定を説明するための物語」ではなく、「物語の中で設定が自然に息をしている」からだと思います。
SF作品というと専門用語が多くて難しそう、という印象を持つ方もいるかもしれません。けれど本作では、その専門用語がむしろ世界のリアリティを高めるスパイスとして機能しています。
組織、装備、能力、コードネーム。どれもが作り込まれているからこそ、「この世界は本当に存在しているのでは」と感じさせてくれるのです。
そして、この複雑になりがちな世界観を、ぐっと親しみやすくしてくれるのが、主人公・タカト(コードネーム:レオン)の存在です。彼は過去に重いものを抱えている人物ですが、口調は明るく、感情表現も素直で、どこか人懐っこさがあります。
その明るさのおかげで、シリアスな状況や専門用語の多い場面でも、物語全体が暗くなりすぎません。読んでいると自然と、「この主人公についていきたい」と思わされます。
でも「なかなか物語が動いていかない…」と投げ出してはいけない作品です。
読み進めれば、どんどんそれが分かっていきます。
そして、本作はバディものとしても非常に魅力的です。
タカトの相棒ディーンは、冷静沈着で理知的なタイプ。直感と行動力で突っ走るタカトと、状況を俯瞰し支えるディーン。この対比がとても心地よく、二人の掛け合いが物語に安定感と深みを与えています。
さらに、周囲のキャラクターたちも役割がはっきりしていて、誰一人として「背景に埋もれている」感じがありません。組織もの・チームものとしての配置がとても上手いと感じました。
しかし、この作品でわたしが一番心を掴まれたのは、物語の奥に潜む「謎」です。
その象徴が、ある場面で主人公に向けて投げかけられる名前――
「リェフ」。
主人公はその名に心当たりがありません。
読者にも、当然ながら説明はありません。
けれど、その呼び名はあまりにも意味深です。
「なぜ、主人公は別の名前で呼ばれたのか?」
「それは過去と関係しているのか?」
「主人公の幼少期に、何があったのか?」
「そして、本当に“何も仕込まれていない”と言い切れるのか?」
体調の急変や、過去に関する断片的な描写、周囲の人物たちの反応が重なっていくことで、「これは偶然ではないのでは?」という疑念や、本作の核となるのでは、という確信が確実に積み上がっていきます。
「リェフって何なの……?」
「それ、いつ分かるの……?」
すごく、気になります!
また、世界観がしっかりしているからこそ、この謎が浮つかず、物語の芯として機能しています。主人公の明るさ、仲間との関係、日常と非日常のバランス。そのすべてがあて、「リェフ」という違和感が、より強く胸に残るのです。
これらの謎が、これからどう明かされていくのか。主人公は、自分自身について何を知ることになるのか。そして「偽りの記憶」というタイトルが、どこで、どのような意味を持つのか。
先が気になって仕方がない…そんな強い引力を持った、推したくなるSFバディ作品。
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