「恋愛=甘いだけ」じゃない! 一人の少年の癒やしと再生の物語

いじめ──幼少期に受ければ受けたほど、取り返しのつかない傷を残すもの。
人格形成にまで影響を及ぼし、へたをすれば一生付き合い続けなければならないスティグマとなるもの。

この物語の主人公・水瀬蒼空は「信じること」を失った少年です。
物語の核は、蒼空が過去のいじめ(本人の言葉では“小さな戦争”)によって人を信じられなくなり、人生を一度リセットするほど追い詰められた、というところにあります。

ただ、面白いのは、「ただし生活能力(料理・家事)は高く、きちんと自立している」こと。読者は“弱さ”だけでなく“強さ”も同時に見られるので、主人公に敬意と共感を持ちやすい。このキャラ設定は上手いなあと思いました。

次にヒロイン・白神雪は「真っ白な光」として現れる存在です。
ただし、何かしらの事情を抱えている。
雪は蒼空を知っている。蒼空は雪を知らない。
新しい形のボーイミーツガールだと感じました。
ヒロインが「記号」としてではなく、物語を左右する「装置」として配置されているからです。これは先が予想できない。

作品タイトルにある「8年越しの想い」という言葉が示す通り、雪は蒼空と過去に何かがある。蒼空は思い出せないのに、雪は知っている(あるいは確信している)気配がある。このズレが、ラブコメとしてのドキドキの芯となってます。

あとこの作品が特殊なのは、普通のラブコメだと「距離が縮まって照れる」があるのに、それ以前として、蒼空側に“恐怖・警戒”がある。この独自性です。だからこそ、雪が「後ろの席になったんだ、よろしく…ね」と少し赤らめて言う場面は、ラブコメ的な可愛さと同時に、蒼空にとっては「試練の一歩目」にもなっている。この二重構造も、すごく印象に残りました。

そして何より。この作品が心を暖かくしてくれる理由。
それは、現在の主人公の周囲の存在です。
主要二人の周囲が、安全装置として機能していて、例えば、席替え後の昼休み、机の配置を「対面」にして蒼空の負担を減らす描写など、すごく心が暖かくなります。

果たして、雪が匂わせている「背景」が、主人公にどのような影響を及ぼすのか。
この暖かい読後感のある作品に、「過去」が異物として紛れ込む可能性はあるのか。

颯佑・琉翔が、蒼空のペースを尊重してくれ、
雪が「近づきたい」気持ちを隠さず、でも慎重そうで、
しかも、蒼空が「変わりたい」という意思を自覚している。

すごく優しくて、暖かい気持ちになれる本作。
こういうラブコメ、大好きです!
二人の想いの行く末も、わたしもやさしく、暖かく見守っていきたいと感じました。