箱詰め!~清と実の場合~
谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】
箱詰め!~清と実の場合~
「
「うっせ、
「そう言われてもなぁ……」
苦笑した
慣れた気配ではあれど、自分の意志と関係なく他人と密着している状態というのは居心地が悪い。
今俺たちがどういう状況なのかというと。
「箱詰めにする怪異ってふざけてんのか!!」
「うわ耳元で叫ばないで
驚いた
俺と
足の間に足があるし、顔の上に顔があるし、どっちがどうなんだかもうわけがわからん。
下にいる俺を潰さないように、覆い被さるような体勢になっている
「壁壊せないのか」
「この狭さだと……力も入んないしなぁ」
壁を殴りつけようにも腕を引けないし、蹴ろうにも足の可動域もほとんどない。これで壁を破壊するほどの力を込めるのは難しいのだろう。
あるいは俺を気にしなければできるのかもしれないが。それは口には出さなかった。
「けど閉じ込めるだけとか……何がしたいんだか」
「これはこの箱そのものが怪異だからな。多分力尽きたらそのまま取り込まれる」
「げっ!」
ぞっとしたように
そう、こんな馬鹿馬鹿しい状況ではあるが、案外と危機でもある。
閉じ込める、というのは相手の反撃手段を奪うことができる。身体を拘束すれば、自分が傷つけられることはない。身動きのできない相手は徐々に弱っていく。直接手を下さずとも、生き物を殺すことはできる。
「でも力尽きるったって……人間が餓死するまでは暫くかかるだろ。そこまでこの怪異の方ももつのか?」
「餓死するまで……待つ必要、ないだろ。人間には、もっと根本的に必要なものがある」
「……
声の調子がおかしい俺を、
「っおい」
俺の顔色を見た
「なんでそんなになるまで言わない」
「言ったって、すぐに、出らんないだろ。なんか思いついてからと、思ったんだよ」
けれどぼんやりとする頭は何も思いつきそうにない。
少し喋るだけで息が上がる。苦しそうな俺に、
「――酸素か」
そう。この箱には通気口がどこにもなく、面と面の繋ぎ目に僅かな隙間もない。密閉された空間では、酸素はどんどん減っていく。成人男性二人いれば、尚更。俺が騒いだせいもあるかもしれない。
既に俺は酸欠状態になっていて、頭痛や眩暈を感じていた。
「
そのまま渾身の力を込めて、接着面を剥がすように腕を引く。
硝子を引っ掻くような嫌な音がして、ちりちりと鋏で削られた場所から粉が零れだす。それを吸わないようにか、
視界が
新鮮な空気が流れて、外に出られたことを知る。
粉が落ち着いた頃になって、ようやく
「
酸素を肺いっぱいに取り込むと、俺は拳を握りしめて、
「あだっ!?」
「出られるならさっさとやれ!!」
「あんな狭い場所で刃物振り回すの危ないだろ!」
「怪異の中にいる方が危ないわ……っ」
ぐら、と体が傾いだ。それを
「あーあー、急に叫ぶから」
「誰の……せいだと……」
「無理すんなよ。しょーがないな」
ひょいと背負われて、俺は唸った。情けない。
「なんで箱を出てまで密着せにゃならんのだ……」
「背中が不満なら赤子のように抱いてやろうか」
「悪かった」
「よろしい」
なんだかんだでまた助けられてしまった。
寺に帰ったら酒でも出してやるか、と思いながら、俺は温かな背中に全てを任せて目を閉じた。
箱詰め!~清と実の場合~ 谷地雪@第三回ひなた短編文学賞【大賞】 @yuki_taniji
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