八尾色
あそこの壁に映る黒猫を見てください。
あれは黒猫でしょうか、いえ、影かもしれませんね。なにせ、目が光っていませんから。
あるいは黒いタイツを纏った白猫かもしれませんが、そもそもこの部屋は黒いのでしょうか。
あるいは私の目が反転しているのかもしれませんが。
■
もう一度社に戻った。
神様はもう一度、青い鳥をおさめに行った。
僕は尿意を催して、広い社の中から厠を探して走り回っていた。
──トイレに行くならばトイレ。トイレならばトイレだ。
ああ、また頭の中で知らない言葉が蠢く。
ていうかそれどころじゃない。
廊下を縦横無尽にかけていくと、開けた場所があった。そこは砂利が敷き詰められていて、空が仰げる場所だった。
そこには全裸の少年がいた。
金髪で青い目をした少年が犬のように四足を地につけて走り回っていた。
──それは奇妙だろうか。お前はそう言ってしまえるのだろうか。
僕は口を覆った。吐き気がする。
その場でえずいていると、どこからか全裸の少女が顕れる。少年と少女はじゃれ合うように踊り、鬼ごっこを始めた。どちらも四足歩行で。
時に端の方に寄っていき、──音を鳴らし──た。
──常識的に考えて、この森では異常だ。あの猿共は裸だった。彼らも裸だ。神様だけが服を着ていれば良いと思わないか?そうだお前が異常なんだ。
シャツのボタンに触れた。
服を脱がなければ。
シャツを脱ぎ捨て、ズボンを脱ごうとした時、少年がこちらを向いて言った。
「いらないの?」
──必要が無いとはぶしつけだ。必要があるとは我儘だ。
少女も言った。
「いらないの?」
いつの間にか言っていた。
「ああ、いらない」
その瞬間、少年と少女はこちらに化け物のような形相で飛び交ってきた。
いや違う、脱ぎ捨てたシャツに飛び交ったのだ。
少年と少女は互いに噛み付き合い、最後には少年が服を手に入れた。
少年は服を着る。
──すると少年から犬らしさが無くなる。すると少女が更に犬らしくなる。すると、お前はまたもや異常だ。
少年は笑顔で立ち上がり、口を開く。
「やあやあ、君は?」
僕は恐怖で──音を鳴らし──てしまう。
──音を鳴らし──ながら僕は走って道を戻った。
神様のもとまで。
「どしたんやぁ」
「あの、子供がいて、犬から人になったんです」
「あー、待て待て、イヌ?ヒト?」
「だからぁっ」
「まずコドモってなんや?」
「えっと、だから男の子と女の子がぁっ」
「はあ?知らんなぁ」
「なんでだよ」
とか何とか言ってると、あの少年が現れた。
「逃げないでよー」
僕は少年を指さして、神様に抱きついた。
「あれですあれ」
すると神様はおさめるのをやめて立ち上がり、腕を組んで仁王立ちした。
──かっこいいといって良いのだろうか。神様に対しては思うことさえ背信である気がする。
「お前は誰だ」
神様が少年に問う。
少年はへらへら笑って答えた。決して神様の顔を見ず、俺を見据えて答えた。
「ヒルガミ」そして付け加える。「片割れはヨルガミだよー」
──昼と夜は対極だろうか。どっちにしろお前は異常だ。混ざれない。
それから、少年は僕を指差して言った。
「お前はマサガルー」
──ああ、この場合の判断はどうだろうか
「今、なんつったァ!」
それを聞いた神様が少年に掴みかかった。
そのまま片手で彼の頭を持って、宙に持ち上げる。
「アレコレソレは総て見切った!ふん!」
神様はそのまま握りつぶした。
少年は中で渦を巻いて捻れ消えた。
──消失とはなんだろうか。誰が食ったか、どこに行ったか。
「うわぁぁぁ!」衝撃の光景に僕は絶叫する。
神様の着物を握る力が強くなった。
森(旧題:まるで不定形で無色透明な 産坂あい @turbo-foxing
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