女王のシマ

 確かに。確かに。

 一度は。

 私は影のような人だから気にしないでと言いましたが。

 やはり、私もヒトでありますから。

 根は寂しがり屋さんですから。

 やはり、ヒトってそういうものでしょうから。


 独り頭の中で話している内に、気付きました。私の胸が黒く染まっています。

 包丁が刺さっています。


 ■


 社の外は騒がしかった。

 黒猿達が、叫び声を上げたり、奇怪なダンスをしたりしながら、集まっている。

 神様が黒猿の群れに近付くと、静かに。

 まるでモーセに割られた海のように、道を空けた。

 神様の背中を追って、人集りの中心に行けば。

 胸に刺さったナイフからドス黒い液体を垂れ流しながら、黒猿が仰向けで倒れていた。

 身体と全く同じ色であるためか、一瞬ナニか分からなかったが。

 匂い、周囲の反応から。

 それが、血液。死体だと予想できる。

「これって」

「そうですね。死体です」

 まるで二重人格のように、よそ行き顔の神様は。堅い口調で事実を教えてくれる。


 神様は、辺りを見回してから柏手を打って。

「はい。解散してください!」

 そう言った。


 すると。集まっていた黒猿達は、唯一色を持った歯茎を見せながら、離れて行くのだった。真っ白の歯がいくつもこちらを見つめていて、いささか気色悪い。


「どうして」

 どうして、仲間が死んだのに、どこかへ行くんだ。

 神様は、総てを解っているように。

「黒猿一人殺したところで、この森では罪にならないのです。人数によって変わってはきますが」

 割り切ったように語った。

 それを聞いて絶句した。


 地面の上、僕の目の前にある黒い死体。漂う鉄の香りが鼻を刺してきて。

 逃げたくなるが。

 あの黒猿達と同じになってしまうような気がして。

 思い止まって。

「……ありえない」

 無理矢理に正論を絞り出す。

「ありえない?そうかいなあ。正論やろかあ。どうやろなあ」

 神様がいつものはんなりとした口調で指摘してくる。

「殺人はダメです。流石に。はっきりと。……分かります」

「お前には黒猿が人にみえてん?」

「動物を殺すのも良くないです」

 頑なに譲らない僕を、神様の顔を覆う、狐面の目がにやりと笑う。

「じゃあ、どうするん?」

「えっと」

「?」

 だからと言って、どうする事も出来ない。行動力の無さに対して、開き直ってしまっている、僕は何も出来ない。

 神様は答えをくれた。

「犯人捜すの?」

「捜したら、良いことありますかね」

「私はおもろい」

 僕の肩を撫でる神様は、あっけらかんと言ったが、そんな言葉でも。

 僕には、とてつもない原動力になる。

 それほどまでに彼女は僕に強い力を与えるのだ。




















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