雪の下で

 三年の歳月が過ぎた。 ある冬の日、二十歳になった純が「墓参りに行こう」と言った。


 雪を踏みしめて辿り着いた墓石には、三十年前に消えた恋人の名が刻まれていた。 命日は、彼女が来なくなったあの日。 そして、今日。


「これは……」


 翔の声はかすれ、凍りついた。 純は静かに彼を見つめて言った。


「わたしよ」


 風が止まり、世界が沈黙した。 少女の顔は少しずつ変わり、三十年前の彼女へと戻っていく。 同時に、翔の体から老いが剝がれ落ち、若き日の姿が甦った。


「これからは、ずっと一緒」


 差し出された手を、翔は迷わず握った。 指先が触れた瞬間、時はほどけ、二人は淡い光に溶けていった。


 残されたのは、墓前に横たわる一人の老人の亡骸。 その顔には、微笑が浮かんでいた。


 空は澄みわたり、雪が静かに降り始める。 白い結晶は、翔を抱きしめるように舞い降りていた。



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冬の駅 銀の筆 @ginnopen

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