第0話 恋文ー零月

私は私自身を切り刻む。


後ろに私の歩んできた

想いがバラバラに並んでいる


母は


私を一度だって見てはくれなかった


愛してはくれなかった


抱きしめられたかった訳ではない

褒められたかった訳ではない


私を見て


私の名前を呼んで

笑顔を見せてほしかった。


私の顔を見ると


思い出したくはないことを

思い出すと言った


私は醜い顔をしていると

言った


私は

私だけの家族が欲しかった。


幸運なことに私の体は女であり


種さえ蒔けば

作り出すことが出来る体だった


だが

私は欲深い女であり

ただ真っ直ぐ

ただ真っ直ぐに私を見て

私に愛を注ぎ倒してくれる人が

欲しくなった


産まれ落ちた時

両手には無数の赤い糸が

巻き付いていた


何かを選ぶごとに

一つ切れ

二つ切れ

赤い糸は切れていく


なんて、気持ちの悪い糸だろう。


ただ一人の運命の人なんかいないのだ


無数の運命があり

自分が選択してきた道を逝くたびに

赤い糸は切れていく




獣の様な嗅覚を持つ母は

多くの赤い糸の先を見つけてきたのだろう


私には

母のような獣のような嗅覚は

持ち合わせていない様だ



私の『運命の赤い糸』



また一つ、また二つと糸は切れていく。


私に孤独ひとりの香りを漂わせながら。



                來宮 理恵

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十二月の恋文 來宮 理恵 @rai-z

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