概要
フウは幼いとき神隠しに遭い、ところどころの記憶がないが、玖八郎は幼いフウに会ったことがあるのだ。
フウは采(さい)という少女を侍女として伴い、玖八郎のもとに嫁入りした。
その初々しい若い夫婦の暮らしは、長くは続かなかった。
山脈の向こうの大国、峡(きょう)が八平領に侵攻してきた。八平には、もとより大国にたてつく考えはなかった。
その峡に恭順の意として、人質を差し出すことを要求され、八平は玖八郎の弟とフウ、親族の少年らを差し出す決定をした。
1570年から1590年の間、奥三河を治めていた奥平一族の史実を下敷きとした、昔語り。
R15に当たるシーンがある回は〈※マーク〉がついています。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!人が生き続けることへの静かな問い
華々しい歴史の表舞台から少しだけ外れたところで繰り返されたであろう事件のひとつ、それを世界を俯瞰するような素朴な語りで紡ぎあげた美しい物語である。
この物語は史実に基づく歴史小説だ。だからこそ、この物語を通じて読み手が突き付けられるものには、ずしりとした重みがある。
信じがたい苦難をしずかに受け入れた人々。人質たちが処刑され、その首を取り戻すべく味方の者が奮闘しても、亡き人そのひとにはもはや関係はない。その後の興亡ですら。世の趨勢を荒々しい力でねじ伏せていくのは、つぎつぎと交代する、今生きているものたちなのだから。
運命に翻弄されたものたちの存在の証となるわずかな痕跡に惹かれ、彼らの生…続きを読む - ★★★ Excellent!!!昔々、確かにあった、命と愛の物語。
戦国の世。巫女として山奥で暮らしていた日女が、ある運命の悪戯で、とある武家の惣領息子に嫁ぐことになる。
そこから始まる波乱の人生。彼らが結ばれたことは果たして幸いだったのか――
史実を元にした物語ですが、著者のミコト楚良さんは「昔語り」という表現をされています。
細々とした歴史考証に囚われず、のびのびと人を描いておられます。その語り口が実にたおやかで、飄々としていて、時に笑いを誘うけれども、しっとりとした大人の描写も確実で、読むうちにどんどん引き込まれてしまいます。
時代背景は殺伐としていて、死を恐れず戦い、親族同士でも裏切りや見切りが発生するのが普通である世の中。
男も大変だけれど、女…続きを読む - ★★★ Excellent!!!本格戦記の──昔語り。
美しい物語。哀しい物語。命のまことの物語。
奥三河の奥平一族の、今は歴史の影に埋もれてしまった、一人の女性の真実を描き出します。
真実、と私は言いました。
ええ、言いましたよ。
史実を下敷にしていますが、架空、と作者さまはことわりを入れています。
しかし、主人公の女性が生きた真実に、読者は触れる思いです。
そして、武家に渦巻く陰謀、本格的な戦が描きだされます。
これは戦記物ではない、昔語り、と作者さまはおっしゃいますが、迫力ある戦がたっぷり描かれた、骨太の歴史絵巻です。立派な群像劇です。
読了後の満足感、胸にあふれる、透明な哀しさの量が半端ありません。
あと、特筆すべきは、共寝のシー…続きを読む