無様に足掻く人間達を愛を持って描いた純文学作品
- ★★★ Excellent!!!
純文学とは何ぞや?
ブリタニカ国際大百科事典では「読者の娯楽的興味に媚 (こ) びるのではなく,作者の純粋な芸術意識によって書かれた文学というほどの意味」と定義されており、然らば文学における芸術性とは何ぞやという問いにぶつかる訳であるが、やはりそれは絵画や彫刻といった造形美を表現する芸術同様、魂を強く揺さぶられるかどうかというところに行き着くのでないかと思われる。その意味において、芸術とは必ずしも美しくなければいけないというものではないと言えるだろう。
今作は美しいか否かという基準にあてはめるべきものではない。無理矢理あてはめるとするならば、主人公カオルを始めとする登場人物の性格や言動は必ずどこかに歪みがあり、そこに生じる空隙があと一歩で寄り添えるはずの心と心を隔てている点、そしてまた人物達が読者の前でも取り繕うことなく人間の怠惰や強欲、欺瞞といった醜さを晒け出している点からも決して心地好い美しさを体現した作品でないことは明白であろう。
しかしながら、魂を強く揺さぶられるかどうかという基準においては、紛れもなくこの作品は作者が芸術的意識を持って読者に提示した「純文学」であると断言できるのである。
なぜならば、一見非常識かつ非現実的に見える人物達の持つ思考や感情はやはり普遍的価値観から外れておらず、数多に訪れる人生の岐路の中でもほんの小さな枝分かれを違えただけで読者自身もまた作中の人物のような境遇で足掻くことになるかもしれないという危惧にも似た共感を有無を言わさず引き起こされるからに他ならない。
そして今、本作を評するにあたって私自身も行き着く先──つまりはオチを見つけられないままにもっともらしい感想を書き連ねるという泥沼を無様に足掻いている最中である。
この紛れもない純文学である本作にふざけたレビューをつけるとうっかり口を滑らせたばかりに作者様から無段階にハードルを上げられ、己のユーモアと才能に常日頃限界を感じている身としては超絶真面目に書評を行うことにより活路を見出そうとしたにも関わらずどこまで書いてもやはりオチないというジレンマ。
もういっそのこと “(以下略)” を使ってしまおうかというお座なりな締め方に流されそうになりつつも、空に届けと言わんばかりの棒高跳びのバー(旧ハードル)を見上げつつ、玉砕覚悟でそこに挑めば己の新境地へ辿り着けるのではないかと一縷の望みを賭けて助走を始めようかというこの瞬間になって、音もなく忍び寄ってきた睡魔に己の意識を支配されつつあr