ただ一直線に飛ぶ龍なんて、どこにもいない
- ★★★ Excellent!!!
人生の流れを龍とたとえるならば。
その背に少しの間だけ、乗ることが許されるならば。
そのうねうねとした濁流にいっとき、翻弄されてみよう。
乗客の魂もまた、上下左右に揺さぶられることだろう。
その間、龍の背から見渡す深淵に、目を瞑らないことが大切だ。
劈く咆哮に、耳を塞がずにいることが大切だ。
周囲に飛び交う、すれ違う龍。過ぎ去っていく龍。落ちていく龍。途切れる龍。交わる龍……。
ただ一直線に飛ぶ龍なんて、どこにもいない。
ジェットコースターではないのだ。コースなんて定められていない。
それぞれの飛び方で、ただ精一杯、不器用に飛んでいくだけ。
私は乗り物酔いはしない質だが、龍の背から降りた後、くらくらと目眩がした。
自分の龍の背からは、何が見えているだろう。
あなたの龍の背からは、何が見えるだろう。
この作品は、紛うことなき純文学作品である。
純文学とは、物語世界の酒である。
この物語は、作者様の醸成力により、度数は高めだ。
飲みくちはまろやかで、特段、構える必要はない。
さあ、一緒に酔いどれになろう。
ただ、一気に呷ると、悪酔いするかもしれない。
そういう覚悟は必要。