魔法が出てくるファンタジーものを見ていると、「ファイアーボール!」とか「ウォータースプラッシュ!」という呪文で魔法を出す作品が多々ある。
実を言うと、これに私はずっと違和感があった。確かに字面として魔法の描写が簡単に想像出来るのが利点だが、せっかくのファンタジー世界なのに、思い切りただの英語にして良いものか、という疑問がある。
幼い頃、親にハリーポッターを買ってもらった時に最初にするのが、ハリーたちが呪文を唱えているシーンを探すことであった。
これは無論、真似するためである。ルーモスとかウィンガーディアム・レビオーサとかエクスペクト・パトローナムとか、意味もなく真似したいのである。
これは魔法に限らず、「かめはめ波」とか「ゴムゴムの〜」とか「水の呼吸」とか、そういうノリのものである。
真似をすることでその世界観に浸り、登場人物に共感する。子供の頃には、そういう営みが確かにあった(今でも人知れず呟いたりはする笑)。
なので、私にとってこの部分は、バトルファンタジーを描く上で絶対に妥協したくない部分なのだ。
まずこのアストラムの世界を作る上で最初に着手したのは、この点であった。
魔法体系は五属性のエレメントで、それぞれKrezar、Azumei、Sizora、Grotak、Ragnizと名付けた。これはそれぞれのイメージから適当に付けたものだが、実際に口に出すたびにしっくりする感じがあった。
そして次に考えたのが、呪文の出力量の差をどう表現するか、ということである。
要するに初級、中級、上級、という感じだ。イメージとしては、メラ、メラミ、メラゾーマという流れである。
初級は冠詞なし、中級はVel、上級はZenを付けるという設定も考えた。
……しかしこの設定はやめた。
属性語の後にダラダラと厨二っぽい言葉を続けて、出力量や効果を決めた方がかっこいいと考えたからだ。
それから、詠唱魔法の動詞。これはこの作品を書く前から勉強しているフランス語の影響を受けている。
フランス語は、主語によって動詞が変化する。例えば「食べる(manger)」という動詞だけでも、
Je mange(私は食べる)
Vous mangez(あなたは食べる)
Nous mangeons(私たちは食べる)
Ils mangent(彼らは食べる)
と動詞が変化するのだ。
私はこのフランス語文法を作品に持ち込むことを決めた。
上で決めた属性語の語尾を、英語の動詞に無理やりくっつけて、オリジナルの単語を作った。
ここまで設定したところで、私はこの魔法の物語が強いオリジナリティを持ち始めたと確信し始めた(実際にこの設定は褒められたりもして、とても嬉しかった)。
その後、魔法学園に潜入するスパイという設定が思いつき、ルークやヒロインたちが生まれ、学園都市アストラムの設定も徐々に固まっていった。
アストラムはもともと、アレクサンドリア図書館や、バグダードにあったバイト・アルヒクマなどがモデルである。
知識が集積し、編纂され、受け継がれていく場所。そういう都市に私は強く惹かれていた。
ただ、立地としては現実でいうところのスイス周辺が適切だと考えた。
これはスイスという土地が壮麗な風景を持っていることや、政治的に中立であること、そして各ヨーロッパ風味の国の諜報員が暗躍する舞台として最も自然だと考えたからだ。
あと何故かスイスには名門大学がたくさんあるというイメージが私にはあった。
そして、アストラムはかつて滅びた文明の遺産を編纂している、という設定を思いついた。
では、その滅びた文明とは何か。おそらくだが、古代ギリシャやマケドニア、ローマ帝国辺りだろうとぼんやり考えた。
しかし、そうなると詠唱魔法の設定に矛盾が出てくることになった。どうして古代文明に英語が存在するのか、という問題である。
最初は、この世界は一巡した後の文明なんだと勝手にSF的な解釈していたが、それはそれで歴史体系が矛盾するような気がして、なんだかしっくりこない感覚に襲われた。
しかし、もうカクヨムに連載し始めていたし、今さら大きく変えるのはどうなんだろうと思い、そのままにしておいた。だが、モヤモヤは晴れなかった。
公募用に再編成した『魔法学園に潜入したスパイの俺は、監視対象の貴族令嬢に恋をした』では、スイスという都市柄を考慮して、アストラムの中の地名をフランス語とドイツ語が混じるような雰囲気に調整を加えた。
しかし詠唱魔法体系そのもののルールを組み替える時間は、締め切りの関係であまりなく、ほぼそのままの形で採用することになった。
そして改めてルールを見直してみると、自分の中でまたモヤモヤが溜まる。笑
「もうええでしょう!」と思わなくもないが、そもそもこの謎に変形させた英語動詞を、きちんと発音出来るのか甚だ疑問でもある。
属性語を決めた時は、動詞活用をするなんて考えていなかったので、語尾はまあまあ適当なのだ。
そんなわけで、活用ルールを廃止し、そのままラテン語やギリシャ語の動詞を当てはめるのが適切なのか、とか考えたが、これも普通の日本人に発音出来るのか疑問は残る。
最初にも書いたように、やはり呪文とは真似されてナンボだからだ。
そんなわけで今、私はエスペラント語に白羽の矢を立てつつある。
エスペラント語は人造言語で、ヨーロッパ語族の語感を持っているので雰囲気は保てそうだ、と考えている。
しかも発音はスペイン語やイタリア語と同じように、綴りのままそのまま読むらしいので、比較的簡単なのだろうと思った。
そんなわけで、アストラム世界の詠唱魔法は、私が作った属性語+エスペラント語の動詞が良いのではないかと考えたわけである。
もしまた書き直すようなことがあれば、その辺りの調整をしたいと思う。
とにかく英語動詞活用だけでも相当に消耗する。前に公開していた、ティア・ラクリモーサと深層結晶竜《クリュスタリア》の戦いで、私はティアに闇魔法を唱えさせた。以下はその呪文である。
「Naidru――」
〈闇よ〉
(中略)
「Wavira Ovys Oblythar Krawlidru Frahm Thae Depythar Abysar.
Dyvoru Thae Pastra, Rendysru Memories, Aend Burydru Alzar Envar.
Hevran Myan Chant, Aend Retordru Alzar Zath Fylladru Diss Placyra Vys Sylence」
〈深き底より這い出でし、忘却の波。
過去を喰らい、記憶を裂き、敵意を葬れ。
我が詠に応じ、この場に満ちる全てを、静寂へと還せ〉
……素晴らしい(自画自賛)。
今見ても厨二感が出ていて最高にかっこいいと思うのだが、この文章を作るまでに相当な時間がかかり、もう二度とオリジナルの詠唱魔法は作りたくないと思った。
「ダーク・デリート!」と唱えたかった。笑
そしてこれはそもそも発音が出来るのか。
少なくとも、日本人の私には不可能だ。一体、どうなっているのだろう?
しかも、いざ戦闘シーンを書き始めてみると、別の問題も出てきた。
単なる魔法の撃ち合いは、書いていてあまり面白くないのである。
むしろ距離を詰める駆け引きとか、体術とか、武器を交えた格闘戦の方が圧倒的に書いていて楽しい。
結果として、戦闘ではそういう要素をかなり混ぜるようになり、当初あれほど重視していた詠唱魔法の重要度も、相対的には少し落ちていった。
何のためにあれだけ苦しんで詠唱体系を作ったのか、と思わなくもないが、まあ書いてみないと分からないこともある、という話である。
……まあ、なんだかんだ色々と書いたが、人造言語を作る、というのは並大抵のことではない。出来ることなら避けたいし、雰囲気だけ保てられればそれで良いような気もする。私は完璧主義すぎて出来ないが。
「打倒、トールキン!」とか考えていた最初の頃の自分を殴りたい。そしてトールキンはあまりにも偉大だった。エルフ語を最初から作るとか頭おかしい(褒めてる)。
そんなわけでアストラム世界も、少しずつ設定を変化させながら、トールキンが作った「中つ国」に匹敵するような世界に育てられればいいなと思った。
結局何が言いたいのかよく分からないコラムになったが、一つの創作秘話として皆様に共有出来たらなと思う。
そんなわけで、気になった方は是非、拙作を読んでみてください。笑
https://kakuyomu.jp/works/822139846558718642
それでは。