• 現代ドラマ

現在地のメモ――残響の中にある距離

第五章を公開しました。

この話でも、はっきりした出来事やドラマは起きていません。
誰かが何かを告白するわけでも、関係が変わるわけでもないです。
ただ、音が生まれる前と、音が消えたあとの「間」に、静かに立っている時間です。

水谷梨子が向き合っているのは、旋律そのものではなく、旋律が通過する空間と、そのあとに残る余韻です。

踏み込みすぎない距離、しかし、遠くに退くわけでもない位置。
音を主張させず、埋もれさせもしない、その微妙な境界に、彼女は常に身を置いています。

第五章で描かれた「音になる前の気配」が、ここでは「音が消えたあとに残るもの」へと移り変わっています。
始まりと終わりの、どちらでもない場所。
意味になる直前と、意味がほどけた直後の層。

はっきりとした感情の名前は与えられません。
ただ、距離と残響だけが、静かに空間に残っています。

掴めないまま、しかし確かに何かがそこに在ったと感じるなら、それはこの話が立っている位置と重なっています。

この物語は引き続き、声そのものよりも、声が生まれる前の沈黙と、消えたあとの余白のそばに留まります。

残響の中に、自分の居場所の感触を覚えたことがある方は、今回も同じ距離感で読んでいただけたら嬉しいです。

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