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星の影放浪記第三巻執筆状況と、チラ見せサンプル

拙作「星の影放浪記シリーズ」第三巻「美良の斎王(うまらのさいおう)」ですが、やっと中盤あたりに入っています。
当初はロードムービー的なお話と思ってましたが、プロットから話が膨らんで、群像劇に……。このままだと、第二巻を超えるボリュームになるかも……。

仕事柄、正月が非常に忙しく、二月以降も私事が盛りだくさんで、すべて書きあがるのは、やっぱり春以降になりそうな気もするのですが……。
とりあえず、ちまちま読み手として皆さんの小説もつまみ食いしながら、空いてる時間で書き進めようかなと。

それでこの第三巻、前に話した通り、今までの本編と毛色が変わって、コメディ調が強くなりそうです。

ちょっとネタバレを含むかもですが、ネタバレ部分を調整した本編の一部を、サンプル代わりに置いておきます。

なお、主人公は出てきません。閑話みたいな場面になりますね。








※  ※  ※

◎「子ぎつねとお巡りさん」



 南都の警察署に、拷問され殺された、三人の警官の遺体が安置されていた。

「や、ヤスさん……」
「広能どん……」
「土屋君……ッ!」
 その前で警官たちが涙を流していた。

 立派な口髭の警部どのが、まばたきも忘れて仲間の遺体を見つめていたが、背筋を伸ばすと部下たちもそれに倣い、間をおいて、そろって遺体へと敬礼した。
 そして、いずれも目に復讐の火を灯し、安置所を後にしていった。

 誰もいなくなった暗い安置所に、ぼんやりとした何かが入り込む。
 子ぎつねだった。
 子ぎつねは、三人の遺体を前足で順に叩いて、

(起きて。おっちゃんたち、起きて)

 すると、三人の遺体から、何かが立ち上った。
 それは、霊魂だった。三人の、生前の姿を形作っていく。

 最も年上の、定年間近だった警官の霊魂が口を開く。

(おお、わしら、死んでしまったんか)
 そして、横の若い警官に、
(土屋君、君もか……)
(ヤスさんもですか……)
 さらに別の、中年の警官が、土屋君の肩に手を置き、
(無念じゃろのう。国もとに親御さん残して来とるんじゃけえ)
(広能さんこそ、奥さんと子供残して来たのに……)
(あれらはわしがおらんかっても元気にやるじゃろ。せがれも、もうすぐ一人前じゃけえの)

(なあなあ、おっちゃんら)
 そこで子ぎつねに声をかけられ、三人の警官は足元の小さな姿を見やる。

 年配のヤスさんは驚いたように、
(おお、子ぎつねの神様……、ちゅうことは、水守のお狐様の、御子神さまやろか)
(うん。おっちゃん、山の出身だろ? 手伝って欲しいんだ)
(おお……、今なら分かるで。何もかもが)
 ヤスさんは顔を上げた。
(何がどうなっとるんか、分かる。これが神様の世界に足を踏み入れたっちゅうことなんか)
(それなら、おっちゃんたちの仲間が、このままだとどうなっちゃうのかも、分かるよね?)
(おう、分かるで)
 ヤスさんたちは子ぎつねを見下ろす。

(このままやと血を見る。みんな、わしらが殺されて、いきり立っとるさかいな。それで血が流れれば、その血は斎王さまをも穢すことになってしまう)
(あのお姫様を追って、いろんな悪い奴らが山に向かってる。お巡りさんたちを、そこに巻き込むのは避けたいんだ)
(よし……)
 ヤスさんは、若い土屋君に目をやり、
(土屋君、子ぎつねさまと一緒に、ご群行のところに行って、護法僧の方に頼むんや。術を使うて、なんとか警部どのたちを追いつけんようにしてくれんかと)
(分かりました)
(わしらはみんなを、落ち着かせなあかん)
 かくしてヤスさんと広能さんの霊魂は、警部以下警官たちの様子を見に行く。


「ご群行の護衛につけと!? 捜査を打ち切れいうことかッ! わしら納得できんわ!!」
 警察署のロビーでは、警官たちの不満が爆発していた。
 標準語の使用も忘れ、それぞれのお国言葉で吠え猛っている。

「わしゃあ土屋君の同郷だど! 土屋君の遺骨をご両親のもとに届けなきゃなんねえ! 犯人の奴ばらの素っ首のひとつも添えんと、ご遺族に顔向けできねえべよ!」
「わしも広能さんのご遺骨届けちゃらんといけんのじゃ! 手ぶらでいねるかぁ!!」
「あの署長が黒松めに尻尾振って、わしらを厄介払いさせたがじゃき!」
「署長めは、どこに隠れ腐ったとか!!」

 その沸騰するさまを、丸顔ちょび髭の署長は、「あわわ」と壁から覗き見ていた。

 ヤスさんと広能さんの霊魂は、その署長の後ろからロビーの様子を見る。
(ヤスさん、ありゃあイケンわ)
(せやなあ。みんな、頭に血が上ってしもとる)


「せからしかッ!!」
 南国出身の警部どのの一喝が飛んで、署長とふたりの霊魂もびくりと背を伸ばし、ロビーの署員たちも静まり返った。

「諸君ッ!」
 警部どのは、標準語で警官たちに語りだす。
「我ら、生まれは違えど、ここに集い、公僕として、時に命をかけて働いてきた」
 それから警部どのは目を閉じて、
「そう、わしらは命をかけて働いてきた。生まれは違えど、わしらは同胞じゃ。世のため人のために立ち働いて来た家族じゃ。それを今日、三人も失ってしまった」
 警官の間から、すすり泣きの声が漏れてきた。

 警部どのは、すっと目を開き、
「わしらの仲間が三人も失われたこの事件、よくよく見返すと怪しいところが多い。犯人めらが坂本君を取り逃したことも、奇妙な資料が捨て置かれておったことも、考えるほどおかしい。じゃが……」
 そこで警部どの、血走った目を、ぎょろりと剥いた。
「分かっておることもある。それは、三人を殺った奴らどもが、斎王ご群行に絡み、何らかの悪だくみばしちょるちゅう事じゃ」

 そして声を張り上げ、
「おのおの方、よっくうけたまわれッ!! 斎王ご群行を追い奉り、守り奉るッ!! 犯人の奴ばらは、必ずその近くに現れるッ!! そいで畏くもご群行に弓引くごとき輩あらば、帝に、国に弓引くも同然ッ!! 遠慮のう、叩っ斬れッ!!」
「おおッ!!」
 警官たちが声を上げる。

 警部どの、目から光を、口から火を放つがごとく、
「仇討ちじゃーッ!!」
「オオーッ!!」

 そして拳を突き上げ、
「鋭ッ、鋭ッ、鋭ッ!!」
「応ーッ!!」
 この文明開化の世にあって、警官たち、いくさに臨む戦国武者のごとく、拳を振り上げ、歓声を上げた。

「こりゃあかん……」
 署長がこぼすと、
(こりゃあかん……)
 ヤスさんもこぼした。

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