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※ネタバレ注意「星の影放浪記 第三巻『美良の斎王』」 思い切りチラ見せ

皆様いかがお過ごしでしょうか。私は先に近況ノートに書いた通り、一年で一番忙しい時期に入っております🤤 気が付いたら三月くらいになってないかなー。

現実逃避と、何かを吐き出したい欲求に従い、現在執筆中で、たぶん、来春くらいに連載開始するかと思う、拙作「星の影放浪記 第三巻『美良(うまら)の斎王』」の、前半ハイライト部分のチラ見せ……、結構ガッツリですが、チラ見せしようと思います。

今までのチラ見せと違い、主人公サイドによる本筋のシーンで、前半のハイライトの導入ですので、ネタバレ注意となります。

『美良(うまら)の斎王』のおおまかなあらすじは、11月14日の近況ノートをご覧いただければと思います。

例によって、チラ見せ向けに、文をそれなりにいじっています。

見せるのは四場面ほどです。

多分今年最後の近況ノートですね。しばらくは、みなさんの小説を暇を見てつまみ食いするだけになっていると思います。

それでは、体調にはお気を付けください。よいお年を。






※  ※  ※

〇「仁王のごとく」

あらすじ:「斎王」の任に就くべく、神宮のある美良(うまら)へと向かう、「玉の枝(たまのえ)」こと、内親王悌子一行。主人公ショール・クランもまた、その斎王の行列「群行」に従う。
京を南下し、南都から東へと山越えの道をゆく群行は、山寺で休息するが、そこにふたつの賊徒ども、合わせて百人が迫る。
この群行、駕籠かきや女官らふくめ、たったの五十人。しかも、清浄を求められ、穢れを厭う群行は、血の穢れも避けねばならない。
ただし神意によって集められたこの群行、内親王にお供するのはいずれも只者でなく……?

※  ※  ※


 内親王悌子は、夢を見た。

 おぞましい三匹の怪物が迫っていた。蛇のような、ミミズのような、ヌルヌルとして、不定形にも見える、真っ黒な影が、不気味に目を光らせ、大口を開けて迫っていた。

 そして、血涙を流してそれを煽る獣の影。

 さらには自分を含む全てを飲み込まんとする、巨大な粘液の塊のようなもの。氷のように青い目があり、自分を見て嗤っていた。

 悲鳴を上げようとした時、地響きとともに何かがそれらの前に立ちふさがった。

(仁王さま……?)
 
 二柱の巨人たちが、憤怒の表情で怪物たちに立ちふさがり、大地を踏み鳴らす。その怒りに怪物どもは怯えて震えた。
 さらに、光の幕が自分を包む。その幕の外に、鬼たちが地面を突き破って這い出し、怪物たちに金棒を振りかざし、雄叫びをあげた。
 さらには狼や熊たちまで現れて、自分をかばい、怪物たちに吠え猛る。
 天でも鷹や烏、フクロウたちが飛び回って、怪物たちを威嚇した。

 そして、憎々し気に唸る青い目の粘液に、天から光が差し込む。

 見上げると、巨大な白い炎の拳が、天から振り下ろされた。それは目のある粘液を焼き潰し、視界に白い光が満ちていった……。


「玉の枝(たまのえ)さま、玉の枝さま……」
 御簾の外から呼びかけてくる、椿と烏羽玉(うばたま)の声で、内親王悌子は目を覚ました。
「うなされているようで、お声がけいたしました。いかがなさいましたか?」
 心配そうに声をかける椿の方に、悌子はか細い声で返す。
「怖い夢を見たんや」
「まあ……」
「でも大丈夫。最後は全て祓われたの。仁王さまと、鬼と、鳥や獣たち、それに、白火(しらか)さまが守ってくれたんよ」

 外はまだ、夜明け前だった。


※  ※  ※


 御仮屋は、寺の白砂の広庭にあり、それを囲む白布は取り払われ、周囲に避難した人々が集まる。

 駕籠かきの、鬼のごとき顔と体躯の長谷衆が、棟梁の喜一ら四名で内親王の御仮屋を護り、その他十二名が避難してきた人々の外側に立つ。
「おっちゃんたち、戦闘はいけるのか?」
 聖戦士ピュラーが、棟梁の喜一に尋ねると、
「わしらが戦えんように見えますかいな、ほむらさま」
 直立のまま、鬼の顔でじろりとピュラーを見やる。
「いいや。いま山にいる奴らなら、おっちゃんら、御輿担いでても片手で二、三人はいけるんじゃないかな」
「その十倍はいけまっせ」
 ピュラーと喜一、にやりと笑い合う。


 一方、
「用意はええか」
 滝家では、九郎の叔父が、子の美奈代と銕太郎に声をかけると、
「はあい」
「はい」
 ふたりとも、気負うことなく答える。

 そこに、
「美奈代ちゃん、短い得物が好きやねえ」
 内親王の着物の世話をしている女官が声をかけてきた。彼女が長い棒を持っている一方、美奈代は短めの杖だった。
「うち、打刀や小太刀が得意やから。でもこれ、琵琶の杖なんよ」
「あらあら、ええわねぇ。骨によう響きそうやわ」
「百合ちゃんは、樫の棒? あら、先っちょに鉄巻いてあるんやね」
「重み付けんと、薙刀みたいに振れへんし、威力も出えへんし。さすがに樫だけじゃ、岩も割れんからねえ」
「あらあら百合ちゃん、人死には無しにしよしね。頭とか割ったらあかんよ」

 そこに化粧係の女官が加わり、
「でも、百合ねえさんなら、樫の棒でも岩くらい割れるでしょ。美奈代ねえさんもそのくらいできはるんやないの?」
「あらうち、ちょっと早く動けるだけよ?」
「美奈代ねえさん、その早さが尋常でないんよ。踏み込みが早くて鋭くて、うっかり瞬きなんてしたら、五歩先から目の前にいてはるくらいやからなあ」
 美奈代はにこにこと、
「うち、組み討ち技も得意やから、懐に入ることには自信あるんよ。それもあるから、片手空けて相手の腕へし折ったりできる得物のほうがええの。八重ちゃんは棒術?」
「ほんまは百合ねえさんと同じく薙刀が得意なんやけど、血を流すのがあかん言われるとねえ。その代わり、鉄刀木(たがやさん)の棒なんよ」

 さらに、内親王の髪の世話をする女官も加わり、
「あらまあ。タガヤサンやね。ええ得物やわ。お膝の皿とか、軽く割れそう」
「そういう千代ねえさんは、美奈代ねえさんと同じく短めの棒どすな」
「うちも美奈代ちゃんには及ばんけど、刀が得意やからね」
「でもねえさん、この棒、見とるとなんか、チクチク感じるんやけど?」
「美奈代ちゃん分かる? ヒイラギの棒なんやけど、今はやりの洋式の付呪っていうのを付けてもろたんよ。これで叩くと、ヒイラギの葉っぱで刺されたみたいに、めっちゃ痛いんやって」
 美奈代を含めた女官たち、店で飾り物でも見て回るかのように語り合っていた。

「激痛の付呪とか、あたしも初めて聞いたんだけど……」
 ピュラーが話に加わった。
「そうなの? もと修験の、まじない師のお方に付けてもろたんやけど……」


※  ※  ※


「な、なんや!」
 東西の山からそれぞれ寺を見張る、ならず者たちの目には、ショールの放った蜂の群れが、真っ赤な煙幕となって寺を覆うように見えた。
 その幕が波打ち、それとともに、地獄の底から響いてくるかのような、空恐ろし気な声が放たれる。

『東の山におるのが鬼蜘蛛、西の山におるのが赤猫であるな』
 僧侶、善舟の声だった。

「お、鬼蜘蛛……!」
「赤猫やって……!?」
 避難した人々がその名に戸惑いの声を上げるが、それを打ち消すように、善舟の重々しい声が響く。

『ここにおわすのは、斎王となるべく美良(うまら)へとご下向あそばす内親王殿下と、その群行である。うぬらごときが近づくいわれはない。とく立ち去れ』

 その言葉は人々の動揺を収めたが、

『……と、言いたいところだが、うぬら外道非道の畜生ども、いや、畜生のケツから漏れ出た下痢クソどもを目にしたからには、一匹として逃さぬことにした』
 
 一転した言葉に、みな固まった。

 その間に、火のついた紙を運ぶ蜂たちが、蜂の群れに紛れ、東西の山に向けて飛び立っていく。

「説教でもするかと思うたら、違うのう」
 赤い幕の下で、九郎がぼそりと言った。また一方で、
「翻訳機の故障……、ではないですね。私もあの和尚どののことが、少しは分かってきましたよ」
 乾いた笑いとともに、ヨレンの王族神官レアンドロスはつぶやき、横の神官カスタリアも苦笑いだった。

『どうせ聞かぬであろうが、一応言うておいてやる。クソには過ぎたオモチャを捨てて、とっとお縄につけ。因果が巡り、悪行の報いが来たのだ。あえて手向かうなら、くたばるその日までまともに寝れぬほど痛い目に合わせる』
 
 聖戦士ピュラーが、「ひええ」と、わざとらしく肩をすくめる。

『いずれにせよ、うぬら裁きにかけられ、素っ首落とされ地獄に真っ逆さまであろうが、おのれらから悔い改めれば、少しはマシな黄泉路になるやもしれぬぞ』

 悪党たちは答えない。悪党なりの嗅覚をもって、得体の知れない、巨大な渦のごとき危険の気配を感じるからだ。

『もう一度言うてやるぞ、鬼蜘蛛のゴロつきどもと、赤猫のコソドロども。おとなしくお縄についてくたばるか、痛い目に遭うてくたばるか、好きな方を選べや、クソ呆(ぼ)けどもが』

 その言葉と同時に、赤い煙幕となっていた蜂たちが散る。


※  ※  ※

「言うてもきかん阿呆どもは、拳骨で分からせるしかないのう」
 ショールの左を、僧侶善舟の巨体がゆったりと進む。カミソリのような目で鬼蜘蛛どもを睨み回しながら、手をぼきぼきと鳴らしている。

「おかしいのう。坊様よ、何か言って聞かせたかのう」
 滝九郎もショールの右を進み、鬼蜘蛛へと向かう。太刀を帯から外し、左手に握っている。

「う……!?」
 白袈裟の巨躯の僧侶と、白狩衣の壮士。その圧に鬼蜘蛛たちは怯む。
「や、やったれや!」
 頭領の叫びに、九郎と善舟、それぞれに、刀を抜いた鬼蜘蛛の賊たちが突っ込む。

「ほな、後は頼むえ」
 ショールはふたりにまかせ、内親王のもとに戻る。
「お前、何しに出たんや」
 九郎が問うと、
「一応の言い聞かせかの。荒事は嫌いなんじゃ」
 
 その間に、五人が同時に善舟に迫る。
 善舟は両手をだらりと下げ、散歩でもしているかのように歩みを変えない。
 賊の刃がその身に届こうとする瞬間、善舟の体が消えたように、人々の目には見えた。
 そして、

「喝(か)ァーッ!!」

 山を震わせるかのごとき、凄まじい声が轟き渡った。

 善舟の右足は、前方に大きく踏み込み、その腰は深く沈んでいた。それとともに、右の拳が低く突き出されている。
 その踏み込みがなしたものであろうか。大砲でも放ったかのような音とともに、大地が揺れ、白砂が舞った。

 何がどうなったのか、善舟に襲い掛かっていた賊どもは、頭上高く吹き飛んでいた。いずれも気を失い、人形のようになっている。

 そして、善舟のその顔は、
「仁王さまだ!」
 ピュラーが目を輝かせて叫んだように、怒りを露わに悪を制する、阿形の仁王、そのものになっていた。

「仁王さま……」
 御仮屋の中で、内親王悌子がつぶやく。

 その様に怯んで足を止めた鬼蜘蛛たちの前に、不敵に笑う九郎が進む。
「う……」
 賊ども、一瞬怯んでのち、
「ぶ、ぶち殺したれやーッ!!」
 やぶれかぶれとばかりに、刀を振りかざし、突っ込んだ。

 九郎は、それを見てふっと笑うが、次いで、武者絵の武将のごとく目を見開き、

「鋭(え)エェーッ!!」

 その口から、善舟のそれにも劣らぬ、甲高い大音声が放たれる。それとともに、九郎の巨躯が一瞬消えたかのように、人々の目には見えた。
 
 またも大地が揺れ、何をどうしたか、五人の賊が宙を舞った。
 その時の九郎は、鞘に収めたままの太刀を、逆袈裟に、大ぶりに振り下ろしたかのごとき格好だった。その表情たるや、
「仁王さまや……」
 この寺の僧侶のひとりがつぶやいたごとく、怒りを内に秘めて悪を見据える、吽形の仁王象と、同じものになっていた。

「仁王さま」
 御仮屋の中で、悌子がまたつぶやく。






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