絵はアリウス=シュレーゲル
プレビュー↓
「んーで。エウメネスくんに聞きたい。フェニキアについて21世紀の地球じゃない他の星の人間であるわたしたちはすっごい好感度ひっくいんだけど、きみはどう? フォイニクスくんだけは好感持てたけどな。フェニキア人でも。クラテロス戦の、へレスポントススの戦いときのエウメネスくんの傭兵隊長。
ティルス攻略でもアレクサンダーのそばにいたんだよね? エウメネス書記官。
『あいつらは、海賊だ
マラトンの戦いの時も、ギリシアの神殿から像を略奪している。
彼らは「貿易」と「海賊」を兼業しそれはもはや国家ぐるみというより、
フェニキア全市が完全に連携していて、王や神官も公認の下、
地中海最強の艦隊がバックアップしてます。誰も止めれられない。
それと、彼らが世界から忌み嫌われるには、別の理由がある。
有名な子どもの人身御供。
これは伝説でもなんでもなく、現実にローマが滅ぼしたカルタゴからは子供の頭蓋骨が大量に発掘されている。そうだよな? シーザーくん?
つまりアレクサンダー大王にとってフェニキア人は犯罪組織に過ぎなかった。だから、あんな地図上の地形を変えるという離れ業をしてあいつらを殺した。ロリペド野郎をアレクサンダーは殺した。
この認識であってるか?
『海軍と貿易と海賊は三位一体だ。これが分らない奴は航海の素人』
悪魔メフィストフェレスの言葉にこれがある。
で、カルタゴの最後にしても、ティルスの最後にしても、一見するとすっごくむごいわ。
ローマはカルタゴを滅ぼした時、ほとんど皆殺しにした。
ローマという国は普通、他の国にはあそこまで残虐に出ないよね? シーザーくん?
またアレクサンダー大王のティルス攻略も、明らかに異常だよね? エウメネスくん?
ティルスというのは、フェニキア諸市の盟主にあたる都市国家で、港の沖合いに島があって、そこに全部の都市機能があったから、
昔から「難攻不落」を誇った要塞都市だった。
現にアッシュルバニパルや ネブカドネザルもここを攻めて敗退した。
ヴェネツィアも、ティルスモチーフで作った町だ。
でもアレクサンダー大王は、港から島まで海に堤防を築くほどの異様な執念で強引に攻め入って来て、フェニキア人8000人を皆殺しにした。
残った2000人は島の城壁の周囲に磔にした。もの凄い光景だよね。
元々アレクサンダー大王は人格者で、占領地の文化を尊重してギリシアと中東の融合に努めたヘレニズム文化の生みの親だよね。
スサの街で現地女性と結婚し、部下もそれを真似た。
エウメネスくんも妻とこの時結婚したんだよね? バルシネの妹。
アレクサンダーは降伏した敵にも寛容で、ましてや、一般人の大量殺害なんて絶対しなかった人。
わたしこれはね、『アレクサンダー大王にとって彼らは『敵』の範疇に入らなかった』ただの人さらいの悪魔、そうみなしていたんだと思う。アレクサンダー。
ホメロスやヘロドトスでは、彼らは人さらいの代名詞。買い物をするためにフェニキア商船に乗った王女と侍女がそのまま連れ去られた記述がヘロドトスの「歴史」にある。
カンビュセスのエジプト遠征に協力した時も、フェニキアの艦隊は陸から人をさらっている。
艦隊っていうからこれは国家ぐるみ。
あってるよねエウメネスくん?
一方、ローマ人の間では彼らは「裏切り」の代名詞です。そうだよなシーザーくん?
エウメネスは長い沈黙の後、アレクサンドロスの印章をそっとテーブルの上に置いた。彼の目には深い思索の光が宿り、ミハエルの質問に対して慎重に言葉を選んでいるようだった。
「フェニキア人について……」
エウメネスは深く息を吸った。
「あなたの言うとおりだ、ミハエル。私は確かにティルス包囲戦に参加した。アレクサンドロスの書記官として、またあの戦いの一部始終を記録する者として」
彼の声は静かだが、その中には当時の記憶が蘇っているような重みがあった。
「私が見たティルスでの光景は……通常の戦争とは異なるものだった。
アレクサンドロスは通常、降伏を勧告し、交渉の余地を残す。しかしティルスに対しては違った」
エウメネスはワインを一口飲み、記憶を整理するかのように続けた。
「ティルス人たちがアレクサンドロスの使者を殺害し、その遺体を海に投げ捨てたとき、私はアレクサンドロスの表情を見ていた。彼の顔に浮かんだのは怒りではなく……嫌悪だった。まるで人間以外の何かを見るような」
クラテロスが深く頷いた。
「その通りだ。エウメネス。俺もあの戦いにいた。アレクサンドロスが『あの島の住民は人間ではない。悪魔だ』と言ったのを覚えている」
ユリウス・カエサルは興味深そうに身を乗り出した。
「カルタゴについて言えば、確かに我々ローマ人も彼らを『フィデス・プニカ』――『フェニキア人の信義』と呼んだ。それは『裏切り』を意味する言葉だった」
シーザーは苦い表情を浮かべながら続けた。
「カルタゴとの戦争中、我々は彼らの都市から大量の子供の遺骨を発見した。トフェトと呼ばれる聖域からだ。最初は戦争のプロパガンダかと思ったが……数があまりに多すぎた」
プトレマイオスが震え声で質問した。
「本当に……子供たちを犠牲にしていたのですか?」
「ああ」
シーザーが沈痛な表情で答えた。
「モロクという神への生贄として。特に危機の際には、最も貴重な――つまり長男や長女を炎に投じていた。我々ローマ人も戦争では残酷になることがあるが、それは我々ローマ人の理解の範疇を超えていた」
サリサ=アドレット=ティーガーの耳がぴくりと動いた。
「それで、アレクサンドロスとローマがあそこまで徹底的に彼らを滅ぼしたのね。普通の征服や併合ではなく、存在そのものの消去」
フィオラ=アマオカミのルビー色の瞳が冷たく光った。
「子供を害する者たちに対して、寛容であるべき理由などないわ」
エウメネスは印章を再び手に取りながら語った。
「私たちがティルス包囲中に傭兵隊長として雇ったフォイニクス――彼は確かに例外的だった。フェニキア人でありながら、子供を守ろうとした。
彼がティルスの慣習を嫌悪し、アレクサンドロスに味方したのはそのためだった」
「その通りね」
水鏡冬華が静かに言った。
「どんな民族にも善良な人はいる。しかし、その文化全体が子供を犠牲にすることを当然視しているなら……」
ナルメルが重々しい声で加わった。
「エジプトでも、彼らフェニキア商人たちの評判は良くなかった。ナイル川沿いの村から子供たちが消え、後にフェニキア船が港を去ったという報告が何度もあった」
トトメス3世も頷いた。
「確かに。私の時代のハトシェプスト女王も、フェニキア商人に対しては特別な警戒を敷いていた。『彼らが来るときは子供たちを隠せ』という布告があったほどだ」
オリュンピアスの目に怒りの炎が燃え上がった。
「私の息子アレクサンドロスが、そのような悪魔たちを滅ぼしたというなら……誇らしく思う」
彼女の声は震えていたが、それは恐怖ではなく激情からだった。
「母として、子供を害する者を許すことはできない」
クレオパトラは考え深げに言った。
「しかし興味深いのは、彼らが記録を残さなかったということね。普通、文明は自分たちの行いを正当化する歴史を書くものよ」
ミハエルが青い霊波動の玉を転がしながら答えた。
「それが奴らの狡猾さだ。証拠を残さない。『日記は全て焼き払え』という家訓があるほどにな。しかし行動パターンは変わらない。時代を超えて同じことを繰り返している」
エウメネスは深いため息をついた。
「ティルス包囲中、私は多くの記録を取った。しかし、最も衝撃的だったのは、彼らが降伏交渉の使者として子供を送ってきたときだった」
会議室に緊張が走った。
「子供の使者?」
東雲波澄が眉をひそめた。
「その子供たちの体には……傷があった」
エウメネスの声は苦痛に満ちていた。
「明らかに虐待の跡が。アレクサンドロスはその子供たちを保護し、医師に診せた。そして分かったのは、彼らが既に生贄の準備をされていたということ」
「畜生どもが」
クラテロスが拳をテーブルに叩きつけた。
「それでアレクサンドロスの怒りが頂点に達したのか」
「その通りだ」
エウメネスが頷いた。
「アレクサンドロスは『これ以上あの島に悪魔を生かしておけない』と言った。堤防建設の命令を出したのはその直後だった」
カッサンドロスは隅で震えていた。彼は自分自身がアレクサンドロスの息子や母親に害をなしたことを思い出し、この場にいることの恐怖を感じていた。
桜雪さゆが氷の結晶を指先で作りながら、冷たい声で言った。
「つまんねー奴ら大人なのに子どもを傷つける事しかできないちんくしゃども、全員凍らせてあげるわ」
彼女の通常の子供っぽい口調とは異なる、氷のような冷たさがそこにはあった。
「ミハエル」
シーザーがミハエルを見つめた。
「あなたが言うフェニキア人の2300年後での活動について、もう少し詳しく聞かせてもらいたい。我々の時代の彼らとどのような共通点があるのか」
ミハエルは霊波動の玉を握りしめた。
「奴隷貿易の基本構造は変わっていない。
現代では『人身売買』と呼ばれているが、本質は同じだ。
表面上は合法的な移民支援や職業紹介を装い、実際は人間を商品として扱っている」
「どういうことだ?」
プトレマイオスが困惑して尋ねた。
ピンッ!
ミハエルは人差し指を立てて説明し始めた。
「例えば、貧困国などから『良い仕事がある』と嘘をついて女性や子供を呼び寄せる。しかし実際は売春や強制労働をさせられる。
古代と違うのは、より巧妙に隠蔽されていること、善良な支援と見せかけることだ」
水鏡冬華の表情が険しくなった。
「……許しがたい行為よね」
「ああ。そして奴らは常に
『慈善活動』
や
『人道支援』
の看板を掲げる。
古代では
『貿易商人』
だったものが、現代では
『人権活動家』
や
『国際支援団体』
という顔をしている。看板変えただけでな」
フィオラ=アマオカミの竜のしっぽが激しく動いた。
「偽善者ほどタチの悪い悪はないわね」
「その通りだ」
ミハエルが続けた。
「奴らの手口は時代を超えて一貫している。
まず『困っている人を助ける』という美名の下に近づく。
そして相手が依存状態になったところで真の目的を現す。
個人レベルでも国家レベルでも同じ手法だ」
エウメネスは印章を見つめながら言った。
「アレクサンドロスが東西融合を目指したのは、そういった搾取的な商人勢力に対抗するためでもあったのかもしれない」
「それならアレクサンダーの評価は個人的にうなぎのぼりだな」
ミハエルが同意した。
「真の国際協調と、搾取目的の『国際化』は全く別物だ。
アレクサンドロスが目指したのは前者、フェニキア人が進めるのは後者」
オリュンピアスが立ち上がった。
「息子の真意がようやく理解できた気がする。息子は単なる征服者ではなく、悪に対する戦士だったのね」
彼女の目には誇りと悲しみが混ざり合っていた。
「もし彼がもっと長く生きていれば……」
「きっと世界は変わっていただろうな。ティルス一度滅ぼしたんだし残党がいてもその都度皆殺しにしてただろう。フェニキアをアレクサンダーが」
ミハエルが優しく言った。
「しかし、彼の理想は我々が受け継ぐことができる。エウメネスの計画もその一環だ」
