誰にも読まれなくともー今は気分が乗っているので更新するー
もうお盆休み以降ら辺まで更新まちできちゃったよ。ディアドコイ戦争編。
モリガンぶっ飛ばす
https://kakuyomu.jp/works/16818023211859110800/episodes/16818622171389966498以下は、来月15日更新予定の話から抜粋。
「ふーん。それってつおい? 食べたらうめえんか?」
桜雪さゆがアホ以上にアホを装って質問して来る。
フィオラの心臓がギクリと跳ねた。予期せぬ質問に一瞬瞬きが止まり、彼女の赤い瞳に驚きが走る。
この古書を「食べる」とは何たる思考だろう。
さゆのいつもの突飛な発想が、彼女の計画の完璧な進行を台無しにしようとしていた。
頭の中でアンティゴノスへのイメージ戦略が崩れていく感覚。
このままでは東方からの知的な美術商人という演出が台無しになってしまう。
(さゆとの知り合い関係をアンティゴノスに気づかれれば、私の二重スパイ計画も危うくなる。どうにか平静を保たなければ)
フィオラは優雅に微笑み、その豊満な体を少し前に傾けながら、「ネクテナボン」の古書をさらに丁重に持ち上げた。
彼女の黒い竜のしっぽがゆっくりと床の上で円を描き、内心の動揺を悟られないように意識的にコントロールしていた。
「さゆ、この書物は『食べる』ものではなくて『読む』ものよ。何千年もの歴史的価値がある古書なの」
フィオラはアンティゴノスの方へ視線を移し、さりげなく説明を続けた。
「アンティゴノス将軍、この桜雪さゆも東方からの……特別な存在です。
雪女の突然変異、春の女とも呼ばれる珍しい種族です。
彼女のユニークな考え方も、ある意味では東方の神秘性の表れと言えるでしょう」
さゆの存在をどうにか自分の有利に変えなくては。
幸い、彼女の十二単という服装は確かに東洋的で、アンティゴノスの目には珍しいものに映るはずだ。
アンティゴノスはフィオラとさゆを交互に見つめ、その鋭い目が二人の間の関係を探っているのが明らかだった。彼は口元に微妙な笑みを浮かべ、腕を組んだ。
「東方の者同士、知り合いのようだな」
彼の声には疑念と興味が混ざっていた。まるでチェスの相手の動きを分析するかのような鋭さで、フィオラを観察していた。
フィオラは落ち着いた表情で頷いた。嘘をつくよりも、ある程度の真実を語る方が信頼を得られると判断した。
「はい、さゆとは以前から面識があります。彼女はいつも予想外の行動をする方ですが、それもまた東方の文化の一部です。この『ネクテナボン』の価値については……」
「ついては?」
桜雪さゆが食いついてくる。
フィオラの赤い瞳がわずかに見開かれ、彼女の思考が急速に回転する。さゆの頭の悪さは装っているだけなのか、それとも本当なのか。
両方の可能性が同時に存在することが、この雪女の突然変異体の最も厄介なところだ。
こんな場で説明しなければいけないなんて。
アンティゴノスの目の前でいかに価値あるものをアピールしながら、さゆのアホさにも対応する必要がある。神に創られた者の宿命とはいえ、面倒なことばかりだわ。
「ネクテナボンの価値は、その歴史的背景と神秘性にあるわ」
フィオラは優雅に説明を続け、アンティゴノスに向けて本をさらに開いた。古代の文字と図版が彼の視線を捉えるのを確認しながら、声に確信を込めて語った。
「この書物はアレクサンドロス大王の神格化に関わる伝説を記録したもの。彼がエジプト最後のファラオ、ネクタネボ2世の子であるという神話を詳細に記しています。大王の出自に神秘性を与えるこの書は、彼の遺産を継ぐ者にとって非常に価値あるものでしょう」
彼女は一瞬さゆに視線を向け、さり気なく警告するように目配せした。彼女の黒い竜のしっぽが床の上で円を描きながら、内心の緊張を表している。
アンティゴノスの表情に変化が現れた。彼の目が本の内容に釘付けになり、その価値を理解したことが伝わってきた。彼はゆっくりと手を伸ばし、フィオラの許可を求めるように目線を送ってきた。
「触れてもよいか?」
「はい」
フィオラは優雅に頷き、本をアンティゴノスに差し出した。彼の指が古代の羊皮紙に触れる瞬間、彼女は桜雪さゆの反応を観察するために横目で彼女を見た。
編笠の下のこの能天気雪女、何を考えているのか全く予測できない。
いつ私の計画を台無しにするようなことを言い出すか分からない。
アンティゴノスの顧問になる第一歩を踏み出したばかりなのに、さゆの存在で全てが危うくなるかもしれない。