SNSで『恋愛漫画は大好きなんだけど、自分が大人になりすぎて色々モラル考えたら無理』と言う話題があった。
それは、本気でその通り過ぎて『いや先生と恋愛とかダメだろ』とか『いやいやいや年下すぎる!犯罪ではあるまいか?』など気になり読めないと意見が集まっていた。
私の場合、上記と合わせてオフィスラブものが集中出来なくなりました。
「彼、彼女は、本当に仕事してるのか?」
「この承認フロー、絶対バグってる!だめだよ法令違反だよ」
現代のオフィスラブ漫画を読んでいるはずなのに、私の脳内はいつの間にか「敏腕コンサルタント」か「監査法人の鬼チェック」ばりの鋭さで、作中の企業体制をジャッジしてしまっている。
ラブに集中したいのに、画面の端に映り込む「クリップで留めただけの謎の紙の束」や「商材不明の企画書」がノイズになり、胸キュンメーターが強制終了するのだ。
特に社会に出て、現実の理不尽な承認フローや、総務・経理の血の滲むような管理体制を知ってしまった大人ほど、この「解像度の低さ」に耐えられなくなる。
ヒーローの「全責任は俺が持つ」という決め台詞を聞いた瞬間、ロマンチックな余韻に浸る間もなく
「いや、貴方主任だよね?主任が持てるレベルの責任じゃないだろ、始末書何枚書く気だ!役職者減給処分なるわ!」
と、頭を掻きむしる上役と裏で泣いているバックオフィスの顔が透けて見えてしまうのだ。
社会で活躍する女性が増え、ビジネスのリアルを誰もが身を以て知ってしまった令和の現代において、現代オフィスラブというジャンルは、実は非常にハードルの高いものになっている。
だからこそ、いま「異世界恋愛ファンタジー」や「悪役令嬢モノ」が爆発的な支持を得ているのではないだろうか。
なぜ私たちは「異世界」なら没入できるのか?
答えはシンプルだ。
「誰も本物の魔力運用や、中世ヨーロッパ風王国の承認フローを知らないから」
である。以下例を三つあげた。
◆「全責任は俺が持つ(公爵版)」の説得力
現代のサラリーマン上司が言えば「ただの社内テロ」だが、国のトップ階級である公爵や魔王が「全責任は俺が持つ」と言えば、それは文字通り「法」になる。総務部への迷惑を心配する必要がない。彼が執務室でヒロインとどれだけ長話をしていようが、「まあ、超有能な側近(大体ちょっと苦労人っぽい眼鏡のキャラ)が魔法じみた速度で書類を処理してるんだろう」で納得できてしまう。
◆【何の仕事か分からない】が味になる世界
「騎士団の訓練」「魔力の研究」「領地経営」。これらは現代の「商材不明の現代企業」とは違い、具体的なディテールがふわっとしていても、ファンタジーという共通言語のおかげで脳内補完が容易だ。ホワイトボードのグラフではなく、羊皮紙に書かれた魔法陣や領地の収支報告書(っぽいもの)があるだけで、世界観としての「格好」がつく。
◆リアリティラインの引っ越し
異世界に舞台を移すことで、読者は「ビジネスパーソンとしての監査役視点」を完全にオフにできる。現実の労働基準法や社内コンプライアンスという呪縛から解き放たれ、純粋に「キャラクターの感情の動き」や「関係性の変化」という、本来楽しみたかったラブの本質に100%没入できるようになるのだ。
ファンタジーという名の「絶対安全な恋の舞台」現代オフィスラブが「現実の裏付け(ディテール)」を求められる茨の道だとすれば、異世界ファンタジーは、読者の現実感覚を心地よく麻痺させ、純度100%のロマンスを供給するための「最大のシステム」なのかもしれない。
私たちが求めているのは、完璧なビジネスマナーやリアルな営業手法ではない。
ただ、その恋が、世界の理不尽や日常のノイズに邪魔されることなく、美しく完結する瞬間を見届けたいだけなのだ。
現代オフィスに「監査の目」を光らせ、疲れ果てた大人たちが、今夜も馬車に揺られて異世界の門を叩く理由は、案外そこにあるのかもしれない。