「カクヨム甲子園2021」ロングストーリー部門で大賞を受賞した、占冠愁さんの単著アンソロジー『RUST RUN!!!』(イラスト・始発ちゃん 北海道新聞社から8月23日発売)。
書籍化の話を聞いてから数か月。ようやく手に入れることできました。
懐かしさと新鮮味があり、自分の作品ではありませんが、カクヨム甲子園で読んだ物語をこうして書籍という形で再び読めるのは本当に感慨深いです。待ち続けた時間は長かったものの、その甲斐は十分にありました。
あれから三、四年が経ちます。収録されている三作品をカクヨムで読んだ記憶が鮮やかによみがえってきました。文章はより読みやすく、内容は一層引き締まっていて、確かな修練を感じさせます。収録作の並び順もよく、とりわけ最後に配された『世界は日高色に染まる』(カクヨム甲子園2021 ロングストーリー大賞受賞作)は、読後に深く沁み入る余韻を残してくれます。
挿絵も多く、鮮やかなカラーイラストが彩りを加えています。さらに、充実した執筆後記を読んだあとに眺める風景写真からは、フィクションであっても題材が現実に根ざしていることを強く感じました。人口減少でローカル鉄道の利用が落ち込み、災害によって廃線が相次いでいる現実を思い出させ、私たちの未来とも無関係ではないと考えさせられます。
装丁も目を引きます。アートポスト紙でしょうか、カバーの鮮やかな発色、始発ちゃんによる表紙イラストや帯のデザインが美しい。新しい本ならではの紙の香りも心地よく、「青春+廃線」という独自の切り口を引き立てています。さらに、カバーをめくった瞬間の仕掛けにも驚かされました。細部にまで心配りが感じられ、手元にあることが嬉しくて思わず頬がゆるみます。
実に、読み応えに満ちた一冊でした。
改めまして、占冠愁さん、おめでとうございます。