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東宝8・15シリーズ

 毎度お読み頂き、有難う御座います。

 日が空いてしまいましたが、円谷英二晩年…というにはあまりに早かった、特撮黄金期終盤の作品群について、簡単に紹介します。

 円谷英二監督は特撮映画の無限の可能性を夢見ていて、カラー、ワイド、立体音響という武器を駆使してファンタジー映画「かぐや姫」、あるいは若き日の自分が夢見た日本民間航空の萌芽を描く「日本ヒコーキ野郎」(仮題として「今日も我大空にあり」とも題されました)の企画を心に抱いていました。

 後者は自分の師である玉井教官も参加した世界最初の飛行機による爆撃、第一次大戦の青島ビスマルク要塞爆撃行を描いた「青島要塞爆撃命令」としてその夢の一端を世に送り出しました。
 それでも円谷監督は戦争映画ではなく、民間航空の物語として描きたく、テレビシリーズ化まで考えていた様で、死の直前の日記に「企画が纏まらず、己の無能を嘆く」とまで無念を綴っていました。

 昔多くの小学校に置いてあった玉川の児童向け百科事典に「怪獣映画と私」というエッセイを書いていて、「怪獣映画の円谷と言われるが自分の映画で怪獣映画は極僅か」「戦争映画のミニチュアに囲まれてこれでよいのかと悩む」とまで悶々とした心情を子供向けの百科事典にさらけ出していました。

 しかし結局その晩年は戦争と怪獣の二本立てで、最後に大阪万博、三菱未来館の映像が入って来てこれに注力し、その撮影で体調を崩したまま他界してしまったのです。

 特撮の神様の寿命を削ったかもしれない怪獣映画については色々書きましたが、戦争映画についても少々。

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 かつて1960年代末、そして長い空白を挟んで1980年代前半に東宝では戦争映画に「8・15シリーズ」と銘打っていました。

 東宝創立35周年記念映画の一つ、昭和42年の岡本喜八監督の「日本のいちばん長い日」が、正に終戦の日、昭和20年8月15日の終戦の詔勅を巡る陸海軍の対立、詔勅を録音した玉音盤を巡るクーデターを描いた、二時間半手に汗握りっぱなしのトライアスロンみたいな超大作がその第一作、となってますが。

 最初そんなシリーズ化など意図せず、本作の大ヒットによって後続の作品が8・15シリーズを名乗ったという展開をしたわけです。

 その第二段が昭和43年、「連合艦隊司令長官 山本五十六」。
 開戦前夜の鹿児島湾での訓練、南太平洋海戦、ガダルカナル攻防戦、そして海軍甲事件(山本長官機撃墜)を特撮で描き、艦船のミニチュア150隻以上を駆使した、のですが。

(あくまで個人の感想です)

 鹿児島の演習は凄い特撮で、最後の海軍甲事件も凄いのですが。
 何しろ物語の主軸が太平洋戦争前半を俯瞰しているためどうしても「ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐」の真珠湾・ミッドウェイの流用が前に出てしまいます。

 南太平洋海戦やガダルカナルの「い号作戦」もミニチュア技術は向上しているのは解るのですが時々「太平洋の翼」の流用があって紫電改とか出て来るのもアレです。

 艦艇のミニチュアも多数用意されたとの事ですが、ガダルカナルへの鼠輸送と金剛、榛名によるヘンダーソン基地夜間砲撃、後ミッドウェイでの加賀沈没1カットと南太平洋海戦の米空母大破シーン(ミニチュアは13mのヨークタウンらしいけど、ヨークタウンはミッドウェイで沈んでいるので、本海戦で沈んだ同型艦ホーネットなのかどうだか?)、後は「太平洋の翼」から流用された戦艦大和のミニチュアが停泊しているカット程度で、どうしても「スゴイトクサツダー!」というインパクトが今ひとつな感じを受けてしまった…

(あくまで個人の感想です)。

 しかし、毎年何故か夏になると見たくなる、日本人にとって習い性の様な一作である事は申し上げておきます。

 ちなみに私は小鹿敦さん演じる山本長官の世話役が何故か大好きです。

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 そして三作目は昭和44年「日本海大海戦」。
 西暦で言えば1969年で、前年の「明治百年」の余韻の中で企画された作品です。
 何と久々の多元磁気立体音響作品!

 本作は物語の抑揚にこそ何と言うか落ち着き過ぎたノンビリさはあるものの、それも明治の講談調というか、不思議な安定感があると感じました(個人の感想です)。

 前年の「山本五十六」も講談調ではあり、日本男子理想の姿を仮託された山本五十六の英雄譚ではあるのですが。
 このお話しでは寡黙にして決断力の塊、東郷平八郎元帥をまたまた三船敏郎が演じています。

 幸い日本海海戦で活躍した三笠は進駐軍によって激しく破壊された後篤志によって復旧され、ロケに活躍しています。

 そして期せずして最後の円谷特撮となった本作では、未だ軍事考証が今ほど詳らかでなかった当時、東宝スタッフが資料をかき集めて彼我の艦隊を再現し、大迫力の海戦を再現しました。

 そして円谷特撮は三菱未来館の映像が最後となり、その途中から後を担った中野特撮の苦闘が始まります。

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 円谷英二亡き後の1970年には、なんと無特撮、過去の特撮流用オンリー、しかしパナビジョン70mm6チャンネルによる超大作として「激動の昭和史 軍閥」が製作されます。ただ、70mm立体音響版は今では発見されていません。

 堀川弘道監督による、「誰が戦争を起こしたのか?」という戦争責任を陸軍に迫る作品ですが、海軍善玉を唱える作風に今であれば違和感を感じます。
 それはさておきサイパン玉砕、本土空襲当たりの時代のひっ迫は身に迫るものがありました。

 ただ、東條首相が勅命によって開戦回避に奔走する姿も描かれていてこの辺り史実に忠実ではありました。
 全編戦争に追いつめられる軍民、悲惨なサイパン玉砕、徐々に狂気に染まる小林桂樹の熱演と、無特撮ながら対策の風格に満ちた作品でした。

 1971年、沖縄復帰を前にして岡本喜八監督「激動の昭和史 沖縄決戦」。
 アニメ監督が愛好しているという事で近年再評価されているらしいですが、それはさておき日本人であれば見ておきたい痛烈な一作です。
 無論色々歴史的な考証が進んで、「赤石隊長による集団自決は遺族年金を求めての渡嘉敷島民の希望だった」とか判明したり、「嘉数の戦いは日本陸軍の合理的な対戦車戦が強力な戦車隊を圧倒した特筆すべき戦いだった」等々、映画の印象と異なる面が明らかになっています。

 しかし戦中派岡本監督による、「国が軍が、若者に市民に死を命じた」というすさまじい怨念は映画全編を覆っていて、仲代達也演じる八原参謀と謎の戦災孤児の少女以外ほぼ全員死ぬという凄まじい映画になっています。

 特撮としては、沖縄本土を俯瞰し、各地で戦火を表すフラッシュがたかれる場面、戦艦大和の菊水特攻を俯瞰した白黒シーン程度でした。
 沖縄県庁やスイグスク(首里城)の歓会門が爆破されるのは、あれも特撮班なのか本編班なのかイマイチ不明。

 1972年、著名な俳優も特撮もない「海軍特別年少兵」で一端8・15シリーズは幕を閉じます。

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 1982年、東宝創立50周年記念映画「連合艦隊」で8・15シリーズは再開しますが、それはまたこの物語の後半で解説する事にします。

 円谷英二が「怪獣と戦争だけでいいのか」と悩んだ、東宝特撮の花形でした戦争映画。

 この異世界ではそんな大戦争は存在しなかったので、百年前の帆船同士の戦争から、近未来の空想戦争映画を経て、数年前の内乱がもし鋼鉄艦隊、飛行機に戦車を配備し始めたばかりの軍隊同士の対決となったら?という関心へ向かいます。

 その結果イキナリ「左を描かせたら右に出る者はない」(???)と言われた山本薩男監督の「皇帝のいない八月」みたいな映画が出来てしまった訳です。

 しかも異世界の原典は寝台特急占拠の話なのに、海空戦にスケールアップしています。
 リック監督も内心「なんだこれ?」と思いながら企画を纏めたんじゃないかと思います。


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