『羆牢(ひぐまろう)』の構想は、日々のニュースで目にする熊害問題と特殊詐欺被害を、一つの物語の中で組み合わせるところから始まりました。
「この二つを、一つの物語にできないだろうか」
最初にあったのは、それだけです。
ただ、二つを組み合わせるだけでは、物語の中心が「熊から逃げること」だけになってしまう。
自分が作りたかったのは、それだけではありませんでした。
なぜ、こんな場所が存在するのか。
誰が作ったのか。
そこへ送られる人間は何を考えるのか。
外にいる人間からは、この場所がどう見えるのか。
そこから世界設定を作り、年表を作り、登場人物を作っていきました。
そうして書き始めたのが、第1話「判決」です。
ちなみに、第1話の冒頭にある2003年のプロローグは、最初から存在していた場面ではありません。
実は、第一部を書き終えてから最後に追加しました。
物語の一番最初にある場面が、第一部では一番最後にできた場面です。
過去の回想についても、当初の構想にはありませんでした。
藤黒姫斗がどういう男なのか。
それを文章で説明するより、彼がどう生きてきたのかを場面として見せた方が、この人物を知ってもらえるのではないか。
そう考えて書いてみると、自分でもこちらの方が面白いと思えたので、現在の形になりました。
もう一つ、『羆牢』を書くうえで全体を通して意識していることがあります。
扱っている題材やテーマはかなり重いものです。
だからこそ、登場人物たちの会話までずっと重くならないようにしています。
深刻な状況の中でも冗談を言ったり、くだらないことで笑ったりする。
会話には意識してコミカルな部分を入れています。
重い題材を扱いながらも、重い場面だけが続く作品にはしたくない。
これは第1話だけではなく、物語全体で意識していることです。
第1話「判決」も、最初から今の形だったわけではありません。書き進めながら必要なものを足し、現在の形になりました。
