帰宅するだけで疲れる。
そして、真央は当然のように家まで上がってくるのな。
「あらぁ、お帰りなさい」
「ただいま戻りました、お母さま。お弁当を箱洗いますね」
「いいのよ、そこに置いておいて」
「ありがとうございます」
俺の前では、のじゃロリ言葉なのに、対外的には普通にも話せる。
多方面にわたって、ずるい魔王だった。
そして当たり前のように俺の部屋でくつろぐのだ。
「いや、真央の家は隣だけど」
「勇者が細かいこと気にするな」
真央は本棚からマンガを取ると、遠慮などせずに俺のベッドに寝転がる。
「いや、真央の家は隣だけど」
「魔王に同じことを二度言わせるな」
真央さん?
もう、魔王じゃないでしょ?
「やはり勇者としては成敗するしかないのか」
すると、真央はこちらに顔を向ける。
「いいように姫に誑かされて、捨てられた口でなにを言うかと思えば……」
「き、傷口に塩を塗るのはよくないと思います!」
「たわけ。ハニートラップには気を付けろと、口を酸っぱくして忠告したじゃろ」
うん?
そうだっけ?
……。
そうだった!
おっぱいの大きい女には気をつけろとか。
おっぱいを押し付けてる女は詐欺師とか。
おっぱいの谷間は、地獄の谷間につながっているとか。
ませた子供だなと思っていたけど、体験談だったんだね。
ハハ。笑えない。
心の底から笑えない。
「ごめん、貧乳のひがみだとばかり」
「こんのスカタン!」
スリッパで頭を叩かれました。
勇者のおれに避けられないなんて。
さすが魔王だぜ……。
「やはり、男というのは痛い目を見ないと覚えぬものだな……」
「クソ!クソ! 認めたくないものだな! 若さゆえのあやまちを言うものを!」
真央はマンガを閉じるとニヤリとする。
「そのすべてを克服する手段がある」
「なんだよ?」
「セックスをしよう」
昨日から、そればっかりだな。
「そんな興味あるわけ?」
真央は、会心の笑顔を浮かべ、両手をいっぱいに開く。
「セックス! とても興味深いぞ! 生命を次世代につなげるための根源的活動を、快楽として組み込まれた人体の神秘! それが愛する者とであれば、もうそれは奇跡というほかあるまい! 想像しただけで、下着がびしょ濡れだ!」
「他人の部屋で宣言することじゃないよ!?」
すると真央は白けたように俺を睨む。
「勇太だって興味はあるくせに。むっつりめ」
「そりゃあるけど……お前は魔王の時の記憶も……あるだろ?」
真央は驚いた風に目を開くと、ぷーっと噴出した。
「知らん。魔王の時も未体験のまま殺されたからな。前世からのパーフェクト処女ぞ?」
「え、勇者もびっくり」
「であろう。ゆえに興味津々であるぞ。責任を取れ」
てらてらと目を輝かせて迫る真央。
豪華なフルコースを前にしたような顔だ。
でも、そうは言うが……。
本当に、真央にそんな覚悟あるのか?
ちょっと試してみるか。
「真央」
「なんだ?」
そう返事する肩に手をかけると、ベッドに押し倒した。
真央は身を守るように体を小さくした。
驚いたように目を見開き、唇をわななかせる。
ほら見たことか。
いざとなったらこんなもんだよ。
そろそろ解放してやろうか。
ガチャ!
「あら、ごめんなさい。お取込み中だったのね」
扉を開けて入ってきた母上。
お菓子とお茶が乗ったお盆を持ってだ。
「違う! 違うんだ!」
「うん、避妊はしっかりね」
お盆をテーブルに置くとそそくさと戻っていく。
「あああああああああああ!」
失敗した! 失敗した! 失敗した!
「にへら」
悪魔のような笑みを浮かべる魔王が見上げていた。