真央が撤退した後は、本当に普通の一日だった。
家族が帰ってきて、晩御飯になって、テレビを見ていた。
「お兄ちゃん、なんで泣いてるの?」
なんでもないよ。
何でもないようなことが幸せだったと思うんだ。
地獄の五年間なんて嘘だったんじゃないかって思う。
こうして、板橋区に帰還した初日が終わった。
そして次の日は五年ぶりの学校だ。
「授業についていけるかな?」
不安だ。
たまらなく不安だ。
でも、記憶も五年前に戻ってくれていた。
よかった……。さすが奇跡だね。
だからといって勉強ができるようになったわけじゃないんだけどな!
キンコンカーンコーン!
「ちゃんと学校に来たな。褒めて使わす」
真央が弁当を持ってやってきた。
「一緒に食べる気か? 席ないぞ」
真央が困った顔をすると……。
「あ、一角さん! この机どうぞ!」
隣の席の女子が気を利かせてくれやがりました。
「感謝する。いずれ厚遇を約束しよう」
「よくわかんなけどヨロシク!」
女子はお弁当を持ってお友達のほうへ行ってしまう。
ちなみに、一角真央(いっかくまお)がフルネームだ。
魔王の時も、額に角が一本だけだ。
攻撃にも防御にも使えるズルい角だったりする。
「おいしょ、おいしょ」
机を並べる真央。
「向かい合うか、隣り合うか。それが問題だ」
「どっちでもよくね?」
どっちみち俺の自由は奪われているのだ。
べつにいいけどさ。
隣に合わせに机がくっつくと、弁当を広げた。
中身は、俺が持っている弁当と一緒だ。
当然だった。
朝から俺んちに乗り込んで、母上と一緒に作ってたもんな。
どういう了見だ母上。
「なんという絶品弁当」
「それ自画自賛て言うんだぞ」
「こんな素晴らしい弁当、誰が作ったというのか!」
つっこみたい。
だが、つっこんだら負けだ。
そんな苦悶の表情の俺を見て真央は微笑む。
「クソ! 幸せそうでなによりだな!」
「ああ、我には幸せになる権利があるし、勇太には幸せにする義務がある」
ため息案件。
「俺の幸せはどこ?」
「幸せは共感できる。数少ない人間の美徳じゃ」
時折、魔王っぽいのやめて?
「じゃあ俺を幸せにしてみろよ」
「ふむ、だからその前に、我を幸せにしておくれな」
そう言って弁当を食べる表情は、まあまあ幸せそうだったけど。
俺の幸せはいつ来るんだろうな?