多次元召喚管理室でアラートが鳴った。
「異世界召喚を感知しました! 座標a93ho14、惑星ゴンザレス、ネグレスト王国です!」
「よし、契約内容を確認しつつ、拠出魔力をモニター!」
「ラジャー」
先ほどまで恋バナを茶請けとしていたオペレーションルームが、蜂の巣をつついたように騒がしくなる。
全方位モニターには、惑星の魔力フローや、詠唱する聖女たちの祈りの姿が映る。
「裏取れました! 申請は多次元世界条約に基づいたものです! ただ……」
「ただ?」
「どうやら被召喚世界が、条約を批准していないようです」
「それは我々の範疇ではない。当事者同士で解決してもらおうか……」
こうして異世界間の不均衡が起こる。
だが、宮仕えである彼らがすべての責を負うことはできないのだ。
司令官は深いため息をつきながら、モニターの推移を見守った。
「拠出魔力、規定値を超えました!」
「よし、異世界転生トラック発車承認!」
「ラジャー!」
オペレーションルームは出撃アラートの表示で赤く染まった。
◇◆◇
アルカディア号。
一見、4Tロングボディに見えるこの機体。
数々の転生者を送り出してきた、異世界転生トラックであった。
「あ、あなたは!?」
転生トラックに乗り込む男の顔に驚くメカニック。
彼こそ伝説のドライバー、アルファード・ザンクレーだった。
「今回は、大きな山になりそうだからな」
ドアを開け、華麗にコックピットに乗り込む。
「ふう、久しぶりだ。とちるなよ? オペレーター!」
『もー、帰ってきたら覚えてなさいよ!』
すでに次元振動流体重力エンジンに火は入っている。
『カタパルト上昇角40度
バランス正常
全回路シールド排除
武装システムへの動力回路セーフティーOFF
シリンダー内振動数毎秒3億6千万、全て正常
推力伝動管、閉鎖弁解除
人工重力発生開始
ライフルレーダー入力ON
スロットル微速前進から全開へ』
発進シーケンスが完了した。
アルファードはアクセルに足をかける。
「アルカディア号、発進!」
前方の重厚なシールドシャッターが開き、タキオンレールがその先の宇宙空間に照射される。
アルカディア号はその軌道の上を、獣のように駆け抜けていった。
◇◆◇
アルファードはブリーフィングで伝えられた内容を反芻する。
今回の現場は深夜の東京都練馬区田柄町の路地だ。
問題ない。
練馬区には何度も来たことがあったのだ。
「なぜ……練馬区が多いんだろうな?」
アルファードですら疑問に思う偏りだった。
まあいい、今回も簡単な仕事だ。
その男は因果に縛られて、必ずボンヤリと車道を歩く。
そのタイミングで駆け抜ければいいのだ。
アルファードには、次元流体エネルギーなどわからない。
やるのは、このトラックで人をはねるだけなのだ。
そして最後の角を曲がる。
先のほうをフラフラ歩くサラリーマンがターゲットだ。
慎重にアクセルを踏む。
速すぎてもダメ。
遅すぎてもダメ。
人をはねるのは、技術のいる難しい仕事なのだ。
そして歩道から車道に出てくるターゲット。
アルファードの口元が緩む。
いかん、いかん、跳ねた時は驚いた顔をしないといけないのだ。
そしてトラックのライトがターゲットの全身を照らす。
もう避けられない。
そんなタイミングでも問題が発生した。
ターゲットが消失したのだ。
代わりに現れた一人の少女。
その手には巨大なハンマー。
「なんだと!?」
急ブレーキをかけるアルファード。
もちろん間に合わない。
そして、転生トラックは少女の持つ巨大なハンマーに打ち返された。
「ばいばいきーん!」
宙を舞う転生トラック。
アルファードの脳裏に妻と五人の子が浮かぶ。
そして、気を失った。
『次元航行システムに障害発生。強制送還システムが起動します』
そして転生トラックは光となって消えた。
◇◆◇
「これでよかったの?」
「オッケー牧場だよ! 地球の勇者君!」
「うちのこと、勇者って呼ばんといて!?」
◇◆◇
「トラック転生失敗です! どうしましょう……」
「なに、今回は条約非批准国だ。補償対象外だ」
「それで済めばいいんですけどねぇ……」
◇◆◇
「王様! 異世界召喚失敗です!」
「ぐぬぬ、もう一回だ!」
「無理です! 財政が破綻します!」
「おのれ! 謝罪と弁償を要求する!」
◇◆◇
「あれ? 俺、なんで?」
「おじさん、倒れてたよ。気を付けてね!」
「あ、うん、ありがとう」
こうして練馬区のサラリーマンは、異世界転生トラックの魔の手から逃れることができたのです。
少女たちに優しくされて、ちょっとだけ生きる活力が復活した単純な男でした。
それでも、また明日からブラックな会社人生活が続くのです。
めでたし、めでたし。
