• 魔法のiらんど

今さらのキリンジ解釈(その7:『エイリアンズ』『秘密』)


 アテクシです。
 先月、派遣のオジサンのお母さまがご逝去されました。お悔やみ申し上げます。

「ご丁寧に恐れ入ります。
 今回、来られる親戚もいなくて家族葬を葬儀屋に頼んだんだよ。それで式の開始前の待ち時間にピアノ生演奏のサービスがあって、故人の好きだった曲を演奏してくれるって言うんで『エイリアンズ』頼んだんだけど、葬式にふさわしくないって断られた。結局、曲はおまかせでやってもらった」

 故人様はキリンジお聞きだったんですか?

「いや、全然。単に俺の趣味」

 だー。ピアニストもおかしいと思ったんだろうね。この親不孝者が!

 と言う訳で、今回はキリンジの出世曲『エイリアンズ』から。


『エイリアンズ』

 作詞作曲は弟さんの泰行さんです。
 AIの解説では「異質な存在が日常に潜む感覚」「社会からの疎外感」「二人だけの特別な関係性」が指摘されています。

「不思議な曲なんだよね~。疑問点だらけ。
 エイリアン(Alien)には外国人、よそ者の意味もあるけど、地球のことを”この星”と呼んだり、月の裏側に思いを馳せたりすることから、素直にE.T.(Extraterrestrial:地球外生命体)のことを指しているのだと思う。

 社会からの疎外感を、自分たちがまるで異星人《エイリアンズ》のようだと表現しているが、何故そこまで疎外されていると感じるのか?
 ’僕’の街の公団住宅にいるのだから、よそ者ってわけじゃないでしょ。
 その疎外感の理由はなんなのか、これが疑問点のひとつ目。

 次に、’ダーリン’との関係だけど、泣かしちゃってるんだよね。
 ’ダーリン’は’僕’といても決して幸せではない。むしろ後悔しているのではないのだろうか。
 とはいえ、’僕’と別れることができない、という状況なのだろう。
 一方、’僕’は’ダーリン’に逃げられないよう、一生懸命だ。
 自分の弱点を晒して笑いを取ろうとして失敗したりしてる。
 しきりと好きだ、愛してると言ってるが、本当に恋人同士なんだろうか。
 この二人の関係性が疑問点その2だ。

 ちなみに、短所→短小とするとカラオケで笑いが取れる」

 笑えませんよ、ドン引きですよ。

「えーと、そして三つ目、最大の疑問点だが、それは曲の終盤に聞こえるチャイムだ」

 そんなものありましたっけ?

「ライブ盤などではないかもしれないけど、俺の持ってるワーナーのカセットとかYouTubeの公式ビデオではしっかり入っている。
 3番の終わりとコーダの歌詞の間にピーンポーンって聞こえる。明らかにメロディの一部ではないんだ」

 カセットで聞いてるんですか⁈ 伸びたテープの雑音では?

「うるさいわ!俺は初代ウォークマンを愛用してるの!

 このチャイムは’僕’の部屋に誰か来たことを示唆するものだ。
 しかし、時刻は既に日の出の迫る夜明け、こんな早朝に来るヤツと言えば?」

 そんな人いましたね、始発より早く来て部屋のベルを鳴らす迷惑な奴。

「それは『朝焼けは雨のきざし』だ。

 違うでしょ、夜明けの家宅捜索《ガサ入れ》&逮捕は警察《サツ》の常套手段。
 すなわち、’僕’と’ダーリン’は犯罪行為の被疑者(犯人)なのだ」

 なんでそうなる、の?

「欽ちゃんかよ。

 とにかく、’僕’と’ダーリン’はどこかで取り返しのつかない大きな犯罪を犯した。
 実際に手を下したのは’僕’かな?’ダーリン’を無理やり共犯にしたのかもしれない。犯罪の露見を防ぐのと、やっぱり’ダーリン’が好きだったから離したくなかったのか。
 あるいは実行犯は’ダーリン’で、’僕’は’ダーリン’の逃亡を助けるために共犯者となったのか。

 そして二人で公団の一室に潜んでいるのだが、いつ追手がくるかもしれない状況だ。周りの視線が気になる。隣人の怒鳴り声にもビクッとなる。
 買い物など外に出る用事も最低限に、なるべく人気のない時間に済ます。

 もう自分たちを守ってくれるものはない。疎外感、閉塞感がつのる。
 逃亡を思って仰ぎ見る航空機《ボーイング》やスーパーカー。いっそ月の裏側へでも逃げられないだろうか。

 ’ダーリン’は情緒不安定だ。なだめすかして少しで眠ってもらいたいが。

 いや、どうやら追手は既に迫って来ているようだ。警察か、それとも……」

 なるほど、それで最初の二つの疑問点、疎外感と関係性が説明できると。
 しかし、’僕’と’ダーリン’はいったいどんな犯罪を犯したのでしょうか?
 いや、本当に犯罪者なのでしょうか?具体的な犯罪についてはどこにも示されてないですよね?
 ただ、早朝にチャイムが鳴っただけなら単なるピンポンダッシュだったかもしれないじゃないですか。

「この犯罪者潜伏説については思いついた俺自身も長い間疑問に思っていた。
 しかし、10年後に発表された曲がその疑いを拭い去った。それが『秘密』だ」

 なんと、ここで『エイリアンズ』が『秘密』とリンクするのですか?



『秘密』

 こちらも泰行さんの作詞作曲で、2010年に発表されていますから、2000年発表の『エイリアンズ』の10年後の作品となります。

 確かに言われてみれば、何かやらかした後っぽい歌詞ですね。
 湧き上がる不安を大丈夫、心配ないと押さえつける心理描写とか。
 けど、だからといって、この曲が『エイリアンズ』とリンクしているとは限らないのではないですか? 何か根拠があるのでしょうか?

「演奏したことのある人ならわかると思うけど、この2曲は歌い出しの音使いが被ってるんだよね。実際、各音の長さを無視して音程だけ書き出すと次のようになる。

 エイリアンズ  ドシラ ミレミレララドレミ
 秘密       シラソミレミ  ラドレミ

『エイリアンズ』の13音中の9音(69.2%)と『秘密』の10音中の9音(90.0%)が一致するんだよね。歌い出しに限っては『エイリアンズ』の音で『秘密』がほぼ作られている。

 いわば、『秘密』は『エイリアンズ』の変奏曲の一種であり、答え合わせの曲の可能性がある、というのは言い過ぎかもしれないけど、2つの曲の関連性を仄めかすヒントにはなっているよね」

 単に偶然の一致のような気もしますが、どうなんでしょうね。
 それより、オジサンが楽器を弾ける方が驚きです。

「娘が小さい頃使ってたおもちゃのピアノを押し入れから掘り出したよ。和音《コード》の弾けないピアニスト、それが俺」

 それは荒井注さんのキャッチフレーズでは?

「古いことを良く知ってるねー。

『秘密』に戻ると、この曲では、血まみれの手を洗って、街の人混みの中へ逃走する’僕’と’愛しい君=ダーリン’の姿が描かれている。
 ’僕’は’愛しい君’をなだめ、結婚を申し出ることで裏切らないことを誓う。ここに共犯関係は確立した。

 そして最大の問題は被害者の血が青かったこと。
 傷つけられ、そしておそらく死んでいるのは地球に潜入した異星人《エイリアン》だった。
 二人を追うのは警察か、異星人の仲間か、あるいは……

 で、『エイリアンズ』に続くわけだ」

 ’ダーリン’も異星人なのでしょうか?

「確かに『エイリアンズ』で’ダーリン’のことをエイリアンと呼んでいるからその可能性もあるね。
 異星人の’ダーリン’は地球人の’僕’と添い遂げるために仲間を裏切ったのかもしれない。
 ’僕’にとっては、異星人の存在など知らずに’ダーリン’を愛してしまったことが、ただの不運だったということかね」

 AIが『エイリアンズ』を評して、異質な存在が日常に潜む感覚、を指摘していましたが、それは『秘密』で初めて仄めかされた青い血を持つ異星人のことだったのでしょうか。AI、侮りがたし。

「キリンジの曲には謎解きの趣向があるものも多くて、特に泰行さんの作品にはホラー・ミステリーの秀作がいくつもあって、聴くたびに怖い想像させられる。だからスキップしようと思っても、何故かやっぱり聴いてしまうんだよね。呪いの一種かね?

『秘密』に関しては、本当に『エイリアンズ』の前日譚かどうかはわからないけれど、ちょうど10年後に解答編が明かされたと考えるのも、ある種ミステリーっぽくて面白いなぁって思ったよ」

 長文、お疲れ様でした、って、お前きちんと喪に服してろよ……

 では、また。

 アテクシ
 &

コメント

さんの設定によりコメントは表示されません