「マコト。あなたって、食べ物の好き嫌い、多いわよねえ」
メアリー・オブ・インディア号の二等客室で。
睦子の何気ない言葉に、マコトは眉をピクリとさせた。
「いいえ、別に責めてはいないのよ。特に豆が苦手のようだけど?」
睦子は宥めるように言ってから質問を投げかけた。
マコトは首を横に振る。
「豆がダメなんじゃないんだ。青臭い豆が嫌い」
「と言うと?」
「グリンピースとかがまず最悪。後はそら豆も同じく。白いんげんとかレンズ豆とか金時豆とか、薄皮の主張の激しいものも、好きじゃない」
「なるほどね。じゃあ、大丈夫な豆もあるの?」
「ひよこ豆とか枝豆とか乾燥大豆は食えるな。でも、豆って貴重な蛋白源だから、無理なものでも出されたら極力食う。グリンピース以外は」
「グリンピースは、よほどダメなのね……。そう言えば、帝国の味噌も醤油も、豆の発酵したものだけど、それは大丈夫だったの?」
「むしろ好き。原型を留めてなければ、大丈夫」
「……原型……」
「甘さ控えめに限り、こしあんはアリだけど、つぶあんはナシ。薄皮が残っているから」
「ちょっと聞き捨てならないわね。つぶあんは素敵な食べ物よ?」
「あんたは甘い物は何でも素敵だろう……」
「そうよ、甘い物は正義よ、ジャスティスよ」
「そうだろうよ……。あ、それから、納豆はグリンピースを凌駕するから。昔、学校の上級生から『下げ渡された』が、あれは腐った豆だ」
「……あれは、腐った豆ではなく、納豆菌で発酵した豆ではなくって?」
「納豆菌ごと地球上から滅びたらいいと思っている。ジェノサイドしたい」
「それは、ちょっと、マコト。納豆菌も頑張って生きているのだからダメよ」
◇◇◇
春の帝冠、更新のない週のこぼれ話。
マコトの豆の好き嫌いについてというニッチな話です。
陸軍幼年学校や士官学校時代にマコトはたぶん、納豆とエンカウントしてるんだろうなあ、と思います。
給食に出なくても上級生が持ってきたら上下関係が厳しいから断れないでしょうね。
あ、あと睦子様にも食べ物の好き嫌いをお伺いしたら、
「帝の好き嫌いは民には知られてはいけないの。甘い物は好きだけど、それ以上の気遣いは無用よ」
と、やんわり断られたので、今回はマコトだけです。