━━1945年(春和元年)8月下旬、スマトラ島。
スマトラ島パレンバン、とある特務機関の協力者が営む宿の一室で、マコトは室内と窓の外を確認した。
窓から南国特有のムワッと暑い風が流れ込んでくる以外の異常は見当たらない。
━━船に乗るまでに片付けておくか。
そう思いながら上着を脱ぎ、脇に吊っていた拳銃をホルスターごと外す。
拳銃から9ミリパラベラム弾をすべて取り出し、慎重に、しかし、手早く分解を始めた。
「何してるの?」
睦子が覗き込もうとしているので、マコトは制止する。
「危ないから離れろ。こいつは、ここから先の航路では、商人が護身用に持つには大きすぎるんだよ。怪しまれるから部品にバラして隠す」
上海萬陽ホテルで撃ったこの銃は、ドイツ製の軍用自動拳銃だ。
9ミリ口径、装弾数10発、シングルアクションショートリコイル。
中国大陸では、コピー品も含めて裏市場で広く流通していたから、詐称身分の国籍に関わらず使用することが出来た。
しかし、英国海軍の庭であるインド洋航路で、堂々と持つには、少し具合が悪い。
臨検で見つかれば、商人ではなくスパイだと疑われるだろう。
まあ、実際、極東の島国の特務機関の諜報員なのだが。
マコトは代わりに腰のベルトに小型の回転式拳銃を装着した。
38口径で装弾数は6発、ダブルアクション。
精密射撃には向かない予備の護身用だ。
ちなみに予備の予備で2発式の41口径婦人用護身拳銃も一応持っているが……。
「拳銃を撃ったことはあるか?」
「ないに決まってるじゃないの」
と、回答があったため、睦子に持たせるのは保留にした。
◇◇◇
というわけで、春の帝冠、更新のない今週は本編から漏れてしまったマコトの拳銃の話です。
4話の上海萬陽ホテルで皿を撃ったやつが、ドイツ製モーゼルC96。
18話で腰下げていたやつが、米国製S&W.38 M10ダブルアクション4インチ。
本編には(まだ)出てない婦人用護身拳銃はみんな大好き米国製レミントン・モデル96・ダブルデリンジャー。
このあたりは1940年代前半の上海で流通していたようなので、マコトが持っていても不自然じゃないかな、と思っています。
18話でダニエルがゆるっと持っていたのは多分鹵獲品のドイツ製ワルサーP38。
ミリタリー知識はゆるふわなのですが、残弾数とか、武器の取り回しが気になってしまうので、一応設定してたりします。
間違ってたらこっそり教えていただけると幸いです!