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悪役天才道術士の憤怒side14-2 七星織のデスマーチ 先行公開

この話は11月10日に書籍が発売した『悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する( https://kakuyomu.jp/works/16818093081011748966 )』のsideエピソードです。
主人公梅雪の側室で最も影が薄い七星織のエピソードになります。
時系列としては九十九州でラップバトルをしているあたりから開始になります。
九章が終わったあたりで一般公開もしていく予定ですので、ご了承ください。

全3話。
今日は2話目。
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 漫画。

 この文化、実は、クサナギ大陸に存在する。
 だがとある人物の持つ特殊スキルの一つである──その人物の名前は『鉄棒ヌルヌル』。もちろん|剣桜鬼譚《けんおうきたん》におけるネームドキャラの一人であり、元ネタは江戸時代の有名絵師である。

 この絵師一人のみが漫画というものを描いている──ゲームにはその漫画の描写は(当人の立ち絵で持っているものしか)なく、漫画文化は『なんか画に狂った老人が一人でやってる謎の浮世絵』ぐらいの扱いだ。
 そう、漫画文化は『変わったやつが一人でやってるおかしなもの』の扱いなのである。

 ……《《ゲーム剣桜鬼譚の世界では》》そうだった。

 だが、|夕山神名火命《ゆうやまかむなびのみこと》は、|氷邑《ひむら》|梅雪《ばいせつ》推しに狂ったオタクであり、その梅雪の正室(現在十五歳)であり、帝の妹であり……

 異世界転生者である。

 剣桜鬼譚世界の中でも帝都という『大正浪漫スチームパンク世界』で育った夕山ではあったが、その場所にも漫画は存在しなかった。
 世界最古の漫画雑誌と呼ばれるものは、夕山の故郷である世界においては明治時代には生まれているとされている。
 その後、現在のような形式で人々に認知されている漫画雑誌は1950年代まで存在しないようだが、鳥獣戯画を漫画に含めるならば、蒙古襲来絵巻なども含めて『絵で連続性のある物語を表現する』というう技法自体は古くから存在した。

 だが、『誰でも手軽に読める』というものではなかった。

 現代日本で生きていると、『漫画を読むのにも訓練が必要』という話を一度ぐらい聞いたことがあるだろう。
 また、右から左に読む形式の漫画に慣れていれば、左から右へ読む形式の漫画に違和感を覚え、読みにくく感じる経験をするかもしれないし、縦読みの漫画をうまく読めない、なんていうことも発生する場合がある。

 漫画というものは『安定して紙が供給され続ける状況で』『絵の連続に関連性を見出し』『どういう順番で絵を見ればいいかの認識をしている』という前提において人口に|膾炙《かいしゃ》するものであり、そういう文化がない世界の場合、なかなか流行させるのが難しい。

 剣桜鬼譚の鉄棒ヌルヌルがこのクサナギ大陸でパッとしなかった事情もそういった『社会と民族の問題』が無関係ではない──当人の性癖が尖りすぎているのも一因だが、尖りすぎた性癖が『これ、尖りすぎやろ』と認知されるところまでいかないという、問題があった。

 こういうものを素早く流行させるにはどうすればいいか?

 そう、『上』からの強烈な宣伝によるブーム創りである。

 そして夕山神名火命は、漫画文化に馴染んでおり、漫画を読みたがっていた転生者で……

 帝の、妹だ。

 かくして鉄棒ヌルヌルは夕山神名火命に見いだされ、漫画を帝公認で描くに至った。
 当人の性癖が尖りすぎていて漫画家としてはパッとしないものの、漫画文化の第一人者として、このクサナギ大陸に漫画を広めることに成功したのである。

 ……とはいえ、新しい文化がだいたいそうであるように、漫画や擬古文ではない小説などは、『低俗なもの』とみなされる。
 帝公認で描かれている──それは立派な後ろ盾だが、上流階級のたしなみ、帝の覚えめでたくするためには読んでいなければならないもの、というところまでの地位は確立出来なかった。
 せいぜいが『庶民のための娯楽を、帝がお認めになった』という、帝の懐の広さを示すエピソード扱いであるし、帝も漫画を愛読しているとは言い難い。

 上流に受け入れられるには、伝統と格式を積み重ねて芸術品として認められるしかないのだ。
 そしてこのクサナギ大陸で漫画が『芸術作品』として上流の者に膾炙するには、百年ほどの時間が必要であろう。

 だが……その『百年』を、『五十年』に縮めようとする者がいた。

 夕山である。

 上から押し付けすぎては民が嫌気をさしてしまう。かといって、下からのものを上はなかなか認めない。沽券や格式といった問題もあり、認めるに認められない。そもそも、『下の者の娯楽』にはどうしても『低俗』というバイアスがかかってしまう。

 であれば、と夕山は考えた。

 |筆名《ペンネーム》だ。

 現代日本の漫画文化を知っている自分が、帝の妹ということを明かさず、現代日本の漫画技術を広められれば……
 漫画史の進みは、現代日本よりも早くなるに違いない。

 かくして無駄に器用な夕山は漫画を描くことを決定した……
 が、そのための紙やインクの生産ラインの確立(質よりも安さを優先したものを大量生産する必要がある)、漫画を描ける者を増やすための文化程度の向上などをお兄ちゃん(帝)にお願いして待っているうちに、梅雪との結婚話が持ち上がり、花嫁修業などをした。
 その後は梅雪とプールに行ったり、梅雪を追いかけて東北に行ったりと忙しく……

 |熚永《ひつなが》|平秀《ひらひで》の乱で氷邑家が落ち着かない時期を終え……

 ようやく、砂賊糾合事変あたりから執筆に入ることが出来た。

 だがしかし、そこで問題に行き当たる。
 その問題とは──

「キャラしか描けねェ!」

 ド ン !!

 夕山神名火命──
 コマ割りはなんとなく出来る。
 キャラ絵もなんとなく描ける。
 しかし、背景が描けない。そして、なんと……

 戦国時代をモデルにしたクサナギ大陸には、画像ソフトがない。
 フリー素材の背景やら、便利なブラシなんかもない。

 あるのは、ペンとインクと紙。これだけである。

「なので、背景を描けるアシスタントを探していたところ、七星家では絵の修行もある話を急に思い出し、声をかけました!」

 そういうことらしい。

 なぜか仁王立ちで腕を組んでそんな告白をされた|七星《ななほし》|織《おり》は、どう答えていいのかまったくわからなかった。

 思うことはただ一つ──
 夕山神名火命、やっぱりヤベェやつだな、と。

(わけのわからん迫力がある……なんじゃ、わらわは何か糾弾されておるのか……?)

 織はクサナギ大陸の全人民比だと『まとも』に分類されないが、変人・奇人の集う氷邑邸においては常識人に分類される黒幕系クソザコロリババアである。
 なので『いきなり部屋に来た自分より家柄も立場も上位の女が、土下座したかと思ったら仁王立ちして腕を組んでまったく知らない話をいきなり長々と語り始めた』という状況に頭がやられてしまい、うまく反応出来なかった。

「アシスタント代は払います!」

「ま、ま、待ってくだされ」

 このままだとガンガン話が進んでしまい、東北の赤べこのようにうなずくことしか出来ない存在にされる──
 そんな危機感が七星織の口を動かした。

 夕山は腕を組んだまま、難しい顔で黙り込む。
 織は下手に刺激したら何をされるかわからないという恐怖を覚えつつ、言葉を整理して、発する。

「つまりそれは……わらわに、漫画を描く手伝いをせよ、という命令……でしょうか……?」

 ちなみに『わらわ』というのは『|妾《わらわ》』と書き、謙遜した一人称に分類される。
 なので七星家出身の側室が、皇室出身の正室に対して使っても問題はない。もっと細かいことを言えば問題はあるのだが、もう細かいことはどうでもいい。相手が夕山だから。

「命令ではありません。チームになりたい、そういう話です」
「…………はあ」
「織ちゃん、家では暇でしょ?」

 とてつもない失礼な物言いなのだが、昼間から布団をかぶって悶々としていた都合上、織は何も言い返せない。
 暇ではない。暇ではないのだが……花嫁修業(すでに嫁ではある)とか勉強とかにあてる時間を使えば、こうして無駄に悶々とする時間がとれる。そして織はそうしている。

「わかります。私も梅雪様に置いて行かれて、正直、暇です」

 これも暇ではないのだが、夕山は変なこと以外何をさせてもポンコツなので、『姫様は、自由にお過ごしください。それが、氷邑の風に揺れる尾羽の役割でございます(じっとしてボロを出さないようにしてろ)』と言われており、結果的に、暇だった。

 かくして暇と暇がここに出会ってしまった。

「しかし、我々は、梅雪様からのお役目を授かっているのです」

 もうすでに『我々』とか言ってしまっているのだが、そのお役目を授かったのは、夕山一人である。
 なので織の反応は「お役目……?」と首をかしげることだけだった。

「そう! 砂賊糾合事変の顛末を、物語とし、世間に広めねばならないのです!」

 この時、梅雪は砂賊糾合事変をまとめ終え、九十九州でラップバトルをしているところである。

 そして梅雪は『異世界勇者』──|桜《さくら》に宣言した。

『貴様の情けない姿を帝内じゅうにばらまいてやる』

 氷邑梅雪は有言実行の人であるので、言ったからにはやらないと気が済まない。

 脚本は俺手ずから書く──と宣言もしたものの、ちょっと時間がなくて、とりあえず概要だけ書いて『進められたら進めといて』と夕山に渡したのである。

 それを見た夕山(イラスト担当)。

「どうも漫画で浮かんじゃったんだ」

 脳内に漫画が浮かんでしまった。
 なので、

「せっかくだから漫画を描こうと思ったところ……キャラしか描けねェ! なので、背景を描けるアシスタントを募集しています。どうでしょう」
「それが御命令ならばやりますが……」

 織の立場は夕山と梅雪より一段低いので、命令されたらやる。
 しかし夕山、不満なようである。

「命令とかじゃなくて……織ちゃん、このままでいいの!?」
「な、何がでしょう?」
「今の織ちゃん、ぶっちゃけ、|天眼《てんがん》|Bot《ボット》だよ!」
「てんがんぼっと……!?」

 Botが何か知らない織だが、とんでもないことを言われたのは肌で感じた。

「示そう、己の価値。活かそう、特技。ウメちゃんは剣術と護衛。アシュリーちゃんはロボ。側室組で一言で言える役割が『嫁』しかないのは私と織ちゃんだけだよ! 立てようよ、キャラ! 梅雪様のために出来ることを、やらないと!」

 九割がた何を言われているのかわからないが……

 梅雪様のために出来ることを、やらないと。

 その一言は、やたら刺さった。
 己のアイデンティティについて悩んでいたタイミングだっただけに、刺さりまくった。

 織は、布団から這い出す。

「や、やりましょう……わらわも……出来ることを、いたしまする……!」

「給料は出来高、有給は応相談。目標は砂賊糾合事変絵巻の完成。どう!?」
「はい!」

 何もわからないが、とにかく今の織には『なんだってやってやる』という勢いがあった。

 かくして、夕山は織というアシスタントを得て、漫画作成を加速させていくのだが……

 このままでは、夕山の物語で終わる。

 だがしかし、これは、織の物語なのだ。
 ……織の物語に、なってしまうのだ。

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