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悪役天才道術士の憤怒side14-1 七星織のデスマーチ 先行公開

この話は11月10日に書籍が発売した『悪役天才道術士の憤怒 破滅確定だった転生悪役、隠された才能で原作を蹂躙する( https://kakuyomu.jp/works/16818093081011748966 )』のsideエピソードです。
主人公梅雪の側室で最も影が薄い七星織のエピソードになります。
時系列としては九十九州でラップバトルをしているあたりから開始になります。
九章が終わったあたりで一般公開もしていく予定ですので、ご了承ください。

全3話。
今日は1話目。
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「わらわの影が薄くないか!?」

 |七星《ななほし》|織《おり》は、|氷邑《ひむら》|梅雪《ばいせつ》の側室の一人である。

 そもそもの嫁入りの発端が『山でなんか海産物どもに正気度削られて依存癖を発症した』というものなので、本人の自覚はともかく、梅雪からは『なんで急に……?』と思われているというものだ。

 他の側室は隠密頭一名、元奴隷一名という『御三家の後継者だったこともある令嬢』の織と比べるとかなり格落ちする二人である。
 しかしこの二人は重用されている。隠密頭は隠密頭のくせになぜか連れ回されることが多く、元奴隷はそもそも護衛も兼ねているので当たり前のようにそばについていく。

 梅雪はこのように、『家柄』『血統』よりも『能力』『役割』で人を選ぶことが多々あった。

 では織に何が出来るかと言うと、『|天眼《てんがん》』と呼ばれる大規模儀式道術である。

 これは言ってしまえば『衛星画像の閲覧』みたいな術であり、望んだ場所を上空から俯瞰出来るという、偵察において反則級の威力を発揮する術式である。
 七星家家伝かつ秘伝の術式であり、七星家のすべてみたいなところがあるので、方法は秘密、基本的に、七星家家中以外での使用は禁止されており、この術式を修めた者でも、嫁入りなどした場合は使用を禁止されるというものである。

 だが梅雪に依存してる織は普通に使う。
 使ったあとヘトヘトになるし、連続使用は不可能。あと、これは織ならではの不便ポイントなのだが、そのヘトヘト状態で自分が見た映像の内容を文章なりイラストなりで梅雪たちに共有しないといけない。

 しかし便利な能力で、梅雪はたびたび、織にこの術式の使用を依頼する。
 方法を共有されても修練が必要になるので、少なくとも氷邑家の中では織にしか使えない。織ならではの『出来ること』であり、梅雪もこれを軽んじてはいない様子である。

 ……が、その性質から『偵察終わってヘトヘトだし、家で待ってろ』と言われることが多くなる。

 なので──影が、薄い。
 織はそう感じるわけだ。

 なお、織がこうして嘆いているこの時、氷邑梅雪は九十九州でラップバトルなどしているところだ。
 つまり『一人称がわらわのリアルロリババアにして、七星家の祖の祖(たぶん祖母ぐらい)の毛利モトナリ』に出会った後の時系列なので、影が薄いのに加えてキャラ被りまで発生している。

「このままでは、わらわが消えてしまう……」

 なんていうか、梅雪の頭の中から。
 梅雪の女難の相は|夕山神名火命《ゆうやまかむなびのみこと》の夫にされてしまったことからも折り紙付きだと断言できるレベルなので、きっと九十九州でもろくでもない女に絡まれて、結果として側室に迎えて連れ帰ってしまう可能性さえある。
 そうして『ろくでもない女』ほどキャラが濃いのもまた事実。現に|桜《さくら》とかいうろくでもない女に梅雪はすっかり夢中である。まあ、向けているのは愛情ではなく殺意だが……

 このままでは、まともな自分は梅雪の中から消えてしまう……
 七星織は本気で危惧していた。つまり、本気で自分のことをまともだと思っている。

 何か、ないか。
 天眼ではなく、もっとこう……『七星家の息女』じゃなくて、『自分』をアピール出来る、何かは。

 そのように部屋で爪を噛んでいたところ、部屋のふすまがスパァン! と開かれた。

 織は大規模偵察道術『天眼』の使い手ではあるが、戦う者ではないので、気配感知などは出来ない。
 というか腐ってもお姫様なので、護衛兼傍仕えぐらいはいるし、ふすまの向こうに控えている。

 では、なぜ、それら護衛兼傍仕えからなんの連絡もなく、ふすまが開かれたのか。

 それは……

「織ちゃん、少し話があります」

 入ってきたのが、カラフルな髪のやたら顔のいい女──

 つまり織より腐ってるのに織より姫、帝の妹にして梅雪の正室の、夕山神名火命だからであった。
 自分の主人より位の高い者がいきなり現れた時、傍仕えには『頭を下げて見送る』以外のことが出来ないのだ。

 織はおののいた。
 何せ部屋で昼から布団をかぶって悶々としていた(しかも悩みは自分のキャラにテコ入れするかどうか)ところに、正室にして皇室出身者のエントリーだ。どうしていいかわからない。

 同じく『氷邑梅雪の妻』という立場ではあるが、正室と側室だとやはり身分格差はあるし、皇室と御三家でもやはり身分格差はあるので、普通なら『今から行きますと夕山が手紙で織に一報を入れて、織がそれを受け取ったあと、ご足労いただくのは申し訳ないのでこちらから参ります、と返事をし、お土産など持ち、当然、手紙で日時を決めてから、それなりの衣服を自分と従者に着せて、お部屋にうかがう』ということをしなければならない。

 しかし夕山にはそのようなことを気にする常識がなかった……

 布団に籠もっていたところを来られたのでどうしていいかわからず、妖怪布団被りになったままのところ、夕山が真正面に立つ。
 そして、なぜか腰に拳を当てるようなポーズをとり、言った。

「絵、描けるよね」

「……はあ、まあ……」

 天眼の情報を他者に共有することもまた、七星家後継者の責務の一つである。
 天眼というのはあくまでも『遠方の景色を見る術式』である。これを他者の脳内に直接流し込めるわけではないので、七星家後継は『天眼の術式』と、『術式で見た光景を伝える方法』だけは修めなければならない。
 これは武術鍛錬をさぼっていても目こぼしされていた織さえも『やらないと、見捨てます』と言われる七星家宗家の本当に重要な技術であり、なので、まあ、絵は描けます。

 しかも織が描ける絵というのは、かなり正確だ。
 地図を描くにも特有の技能が必要であり、また、七星家の天眼は『情報』であるため、誤解なく他者に伝わるような絵を描けねばならない。
 なので『地図の描き方』に加え、写実的な絵を描く方法、さらには『地図』という小さい場所に色々な情報を載せないとならないから、いわゆるデフォルメ化技法なども習っている。
 これは七星家が積み上げて来たノウハウに則った技法であり、ようするに六百年間継ぎ足しに継ぎ足しを重ね洗練されたイラストテクニックであった。

「やって欲しいことが、あります」

「はあ……」

 織は口と頭が回る方だが、夕山のいきなりの来訪を受けるとすべての者が思考能力と語彙を失う。
 特に夕山の声というのは他者の頭の働きを鈍らせる力があった。これにより、夕山の発言を疑うとか、夕山の言葉に抵抗しようとか、そういう考えを人は起こせなくなるのである。

 なので、

「漫画を描くので、アシスタントになってください」

 夕山が、その場に両手を突いて土下座した。

 織の返事は、

「はあ……」

 こうなった。

 他に何を言っていいか、わからなかった。

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