第10話「同じ構造」を公開しました。
悠真は、まだ病院で療養を続けています。
命に別状はありませんが、心身は大きく消耗し、直ぐに自宅へ戻せる状態ではありません。
叔父であり医師でもある啓一は、面会者を絞り、美佐子を病室へ入れないようアドバイスします。
「説明もさせない。謝罪もさせない。悠真には負荷が大きい」
美佐子が謝りたい気持ちは、恐らく本物です。
ただし、謝罪したいという気持ちと、今それを受け止められるかどうかは別の問題です。
また、病院で話題に上がったのが、悠真を救った水無瀬真澄です。
現在は会社を経営し、営業にも携わっている一方、以前は芸能関係の仕事をしていました。
その経歴を知った美佐子は、真澄本人の行動ではなく、「元芸能人」という属性から警戒を始めます。
真澄がした事は明確です。
自暴自棄になっていた悠真を止め、水を飲ませ、家族へ生存を知らせるよう促した。
それでも美佐子は、本人の行動より先に「芸能界」という断片から人物像を作ろうとします。
それを聞いた雅彦は激しく遮断します。
啓一も、短く評価軸を正します。
照臣は、美佐子の発言に、今回の騒動と同じ構造を見いだします。
「断片を繋げる。属性を見る。背景を勝手に補う。そして、本人の行動ではなく、此方が作った物語で相手を評価する」
動画を見た人々は、断片から悠真を作り上げました。
母親へ復縁交渉をさせた男。
母親の後ろに隠れている男。
毒親から逃れられない無力な男。
どれも、本人へ確かめられた人物像ではありません。
そして美佐子も今、同じ方法で真澄を評価しようとしていました。
「貴女は今、それと同じ事を、真澄さんに対してしようとしたんです」
悪意はなかった。
心配だった。
危険かもしれないと思った。
しかし、動機が善意であっても、断片から他人の物語を作る構造は変わりません。
休憩スペースでの会話は、病室にいる悠真にも僅かに届きます。
勿論、具体的な内容までは聞こえません。
それでも、雅彦の声を聞いた悠真は、母がまた何かを言ったのだと察します。
そして、今度は自分を救ってくれた真澄まで傷つけてしまうのではないかと、再び自分を責め始めます。
紗季と照臣は、その思考を止めます。
今の悠真に必要なのは、周囲の問題を全て背負う事ではありません。
水を飲み、眠り、身体を戻すこと。
責任の整理は、その後です。
病院を出た後、照臣は誠一郎へ踏み込んだ進言をします。
美佐子の問題は、会社の顧問業務を停止しただけでは終わらない。
何故なら、今後いつ、何処で、誰に、何を話すのか、その再発の形が読めないからです。
事業だけではありません。
情報経路。
権限。
人の動線。
家族と会社の接点。
次に同じ事が起きた時、クラストロン全体へ危険が接続されない構造を考える必要があります。
照臣は答えを決めません。
外部者である照臣には、会社内部の何を切り、何を残すべきかを決める権限が無いからです。
誠一郎は、ようやく検討を始めると答えます。
火は、ひとまず消えました。
しかし、次の火を防ぐには、以前と同じ器へ全てを戻す訳にはいきません。
人を断片から物語化する危険が、今度は救命者へ向けられます。
そして家族と会社は、何を守り、何処に線を引くのかという、更に重い問題へ踏み込み始めます。