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没投稿① 研究都市編パート3

スミマセン、パート3まで続いちゃいました💦
まだの方はパート1、パート2から見てねノシ

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『やっとあえた』
 喜びに満ちた表情で。

 『たすけてあげる』
 まるで、悪夢を照らす花の様に。

 妖精達のその声は琴海以外には聴き取ることができず、男達から見れば彼女の周囲を妖精達が飛び回っているようにしか見えない。

 琴海の意識は戻っていたが、目の前を飛び回る妖精達の姿を見て、自身の置かれている状況が夢の延長線上にあると判断してしまっていた。

 幻想、此処に顕現せり。
 最早琴海の在り様は人の領域を逸脱し、妖精女王ティターニアの如くして自らの眷族と共に有った。

 圧倒的存在を前に、紫藤の思考は一つの可能性に行き着く。
 音宮鈴音が自身の愛娘に対し、保険を掛けていたということに。

 「──っ、やってくれましたね」
 琴海は一歩、脚を踏み出す。
 まるでそれが合図だったかの様に、妖精達は思い思いに散らばっていく。

 紫藤は危険な状況であると判断し、鎮静剤を含んだ弾丸を琴海に向けて放った。
 それに合わせて男達も一斉に発砲を始める。

 しかし、琴海に対して現代兵器は最早意味を成さない。
 紫藤は脱兎の如く部屋を飛び出し、壁のスイッチを叩いて防護壁を閉める。

 「紫藤さん!? 開けてください!」
 取り残された男達は慌てて防護壁に駆け寄り必死に懇願する。
 しかし悲しきかな。
 その声も扉を叩く振動も、外に伝わることはない。

 「予定より早いですが、アナタ達はその被験体と共に死んで下さい」
 そう言い捨てて紫藤は通路を駆け抜ける、管制室を目指して。

 琴海は凛とした表情で、緑の妖精と白い妖精を男達の周囲へ向かわせる。
 男達は蛇に睨まれた蛙のように動くこともできず、ただただ畏怖の視線を目の前の妖精に送ることしか出来なかった。

 最初に緑の妖精が地面に滑空し、床に口付けをして飛翔する。
 次に白い妖精が滑空し、同じようにした。

 すると床一面につる性の植物が広がり、男達を取り囲むようにして融合し、一瞬にして一本の大木となった。
 当然男達は幹の中で圧縮され、叫ぶ間もなく人の形を失う。

 木の根元には刑事風の男が落としたハンドガンが遺され、琴海はそれを拾い上げると妖精達を引き寄せる。

 白と赤、そして黄色の妖精は琴海の手にする銃へと口付けをし、青と緑の妖精は琴海の肩に座ってそれを眺めていた。

 琴海は、三人の妖精によって雷と炎の特性を得た拳銃を防護壁に向け、引き金を引く。
 するとその威力は、ミサイルをも超える破壊の奔流を生み出し、防護壁諸共周囲に甚大な被害を及ぼした。

 「冗談じゃありませんよ。 こんな…こんなことがあってたまるか!」
 管制室で一部始終を観ていた紫藤は、一人怒りで震えていた。

 各所を映すモニターには、突然の出来事に混乱する職員や、暴走するABWの姿が映し出されている。
 こうなっては、事態を沈静化させるのは困難となっていた。

 紫藤が極秘に受けていた命令は一つ。
 八鍬秀夫に成り代わり、殺戮生物研究開発センター日本支部を支配すること。

 だが既に、その任務を遂行するのは不可能となってしまった。
 その事実に紫藤は発狂し、モニターに拳を叩きつけた。
 何度も何度も何度も何度も何度も何度も。
 そうして息を切らした紫藤は表情を消し、天を仰ぐ。

 「申し訳ございません我が主よ。 私は貴女の言い付けを守ることが出来ませんでした」
 視線を落とし、徐ろに懐から鍵を取り出すと、それを操作盤の下部に位置する穴へと差し込む。

 「ですがせめて…せめてこの場にいる者達だけは……御教えの通りに解放致します」
 断腸の思いで鍵を捻ると、研究所内の全ての防護壁が閉ざされていく。
 それを知った職員は皆パニックに陥るが、既に助かる道は失われていた。

 『緊急焼却シーケンスが作動しました。
機密漏洩防止の為、本施設はまもなく消滅します。
 尚、本施設からの脱出及び生還は禁止されております』
 繰り返し流されるアナウンス。
 施設の動力炉が暴走を始め、その温度を上昇させていく。

 職員の反応は様々だった。
 生き延びる策を何とか練ろうとする者。
 最期まで足掻こうとする者。
 放心する者。
 神に祈る者。
 泣き伏せる者。
 全員が終わりを自覚する中、琴海だけは違った。

 そこには、眼前に広がる出来事を否定し、自らの慣れ親しんだ世界へ戻るという確固たる意志があった。
 爆音と共に天井が崩落し始め、鉄板や土砂が降り注ぐ。
 更には壁からも爆煙が吹き出し始め、多くの職員やABWを呑み込んでいく。
 そんな中でも、琴海は動じていなかった。

 『かえろ! かえろ!』

 「うん、帰ろう」
 嬉しそうに飛び回る妖精達に笑いかけると、白い妖精と黄色い妖精が琴海に口付けをする。

 そして琴海は雷の性質を帯びると、瞬時に雲の中へと昇り、そして爆炎に沈んでいく研究施設を後目に琴海の自宅へと落雷していった。


 ✧ ✧ ✧

 目を覚ますと、自室のベッドに横たわっていた。
 いつの間に寝ていたのか、窓からは朝陽が差し込み、一日の始まりを告げている。

 (夢か、凄く生々しくて怖い夢……)
 部屋を出て、リビングへ向かう。
 何も変わらない、いつも通りの家。
 穏やかな刻が流れる、平和な空間。

 ココアを入れ、テレビを点ける。
 すると、【廃病院が地盤沈下に巻き込まれ、出火】というニュースが流れ、【二十名の遺体が発見され、その内五名の身元が判明】といった報道が流れていた。

 画面を前に、琴海は戦慄する。
 身元画像の内の三名が、夢に出てきた偽警官とそっくりだった。

 (夢……そう、きっと夢の内容がニュースの内容と被っていただけ。 単なる偶然に決まっている)
 淹れたばかりのココアの入ったコップを置き、顔を洗うために洗面所へ向かう。

 「ヒッ──」
 しかし鏡を見て、悲鳴が込み上げた。
 夢ではなかったのだ。
 これまで起こった出来事は現実。
 恐らく妖精達が見えていたあの夢は、全て自分のしでかしたことの記憶に違いない。

 自分は、誘拐されていた。
 そこで、命を奪われそうになった。
 そして、如何に悪い人達だったとは言え、大半の人達の遺体すら残らない程の大殺戮を起こした。

 その事実が、琴海に突きつけられる。
 その恐怖が、ジワジワと琴海を蝕んでいく。
 その後悔が、琴海を圧し潰す。

 「ぁ……あぁ……あああ!」
 黄金色の髪をした彼女は、悲鳴の入り混じった嗚咽を吐き出し、後悔と自責の涙が、桃色の目から流れ続けていた。

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