小説やゲームやアニメですっかりおなじみの舞台となっているダンジョン。本来はお城の「天守」を指す言葉だったのが、時が経つにつれて「地下牢」という意味合いに変わり、現在ではすっかり地下に広がる迷宮を指す言葉となりました。今回の特集ではそんなダンジョンを扱っている作品をピックアップ。ダンジョンの中まで商品を配達するお仕事ものもあれば、ダンジョン配信と因習村を組み合わせた異色の配信ものにあり、さらには殺人事件を扱ったミステリーから落語まで、幅広いダンジョン作品を取り揃えております。

ピックアップ

ダンジョン×夫婦×お仕事もの!

  • ★★★ Excellent!!!

『ボタニカル商店』はかつて最強の探索者パーティーだった夫婦が引退後に経営するアイテムショップ。探索者たちから『ボッタクル商店』と呼ばれ親しまれるこのお店の最大の売りは、アイテムをダンジョンの中にまで配達してくれること。

 ドライなようでいて実は面倒見がいい旦那と、姉御肌で持ちこまれたトラブルをついつい引き受けてしまう女店主のキャラがとても良く、さらに秀逸なのが、普通ならスルーされるようなダンジョン探索の問題を丁寧に掘り下げているところ。大量の荷物をどう運ぶのが効率的か、どうやって光源を確保するのかといった部分にはじまり、なぜダンジョンに安全地帯のような空間が存在するのかという部分も論理立てて解説していく。こうして細かな設定の積み重ねが、ダンジョン内へのデリバリーという奇抜な仕事にしっかりとしたリアリティを与えている。

 タイトルには配達記録とあるが、事件はダンジョン内で起きるばかりではなく、地上でも商売敵からの嫌がらせやギルドからの生存率向上の要請など、次々と厄介な案件が舞い込んでくる。それを一つずつ解決していく過程が実に楽しくダンジョン好きはもちろん、お仕事ものが好きな人にも勧められる一作だ。


(「ダンジョン珍百景」4選/文=柿崎憲)

現代ダンジョンin因習村!

  • ★★★ Excellent!!!

 現代ダンジョンというジャンルにおいて、配信要素が定番となりつつあるが、同じぐらい配信と相性が良いジャンルがある。それがホラーだ。そして本作は配信という設定を使って、現代ダンジョンとホラーという異なるジャンルを一つにまとめあげた意欲作。

 四国の山奥にある初心名村で暮らす高校生の茅葺三郎は妻の勧めでダンジョン探索を配信するようになる。ここまではよくある展開だ。だが、彼の背後には常に村の神様である【うぶなさま】が連れ添っている。怖い。このうぶなさまはとても愛情深いのでモンスター討伐も手伝ってくれるし、お供え物を食べてお腹がいっぱいになると願いごとを叶えてくれる。可愛いね。ちなみに三郎が配信をする目的は村を有名にして、外部からより多くの「お供え物」を呼び寄せるためである。やっぱり怖い……。

 三郎視点で語られる探索シーンは周囲の人間の不穏な発言もあって完全に因習村ホラーだが、配信のコメントや掲示板のリアクションは対照的に極めて軽薄で、この異様なミスマッチが独特のムードを醸し出している。その一方で、村の外部の人間が村とうぶなさまに隠された多くの秘密を探ろうとするミステリーの側面も併せ持ち、複数のジャンルを一つに取りまとめた唯一無二な怪作に仕上がっている。


(「ダンジョン珍百景」4選/文=柿崎憲)

殺人が起きた瞬間、ダンジョンは密室へと変わる

  • ★★★ Excellent!!!

 ダンジョン内で殺人が起こると、空間魔術によって隔離され、外部への脱出が封じられる『マッドハウス』と呼ばれる現象が発生する世界。治癒術師のエドモンは探索中に落とし穴の罠にかかり、そんなマッドハウスの中に転落し、ナイフで刺された少女の死体を発見してしまう……!

 マッドハウスは犯人を正しく指名できれば解除できるので、エドモンはそこで出会った地図屋のアイラとともに事件の解決を図るのだが、本作はファンタジーでもあるので、話はそう一筋縄では進まない。なんと死んでいた少女の正体は吸血鬼であり、エドモンが血を与えたことで完全に甦ってしまうのだ!

 死体が甦ったら犯人わかっちゃうじゃん! もうミステリーとして成立しないじゃん! と思われるかもしれないが、ここからの話運びが実に巧み。被害者吸血鬼のヴィオラが実にいい性格をしているため「彼女の言っていることはどこまで本当なのか?」そして「不死者が殺された場合それは殺人と見なされるのか?」などなど新しい謎を提供してくれて、物語の最後には「なぜ犯人はダンジョンの中で殺そうと思ったのか?」という本作ならではのホワイダニットを提供してくれる。

 物語を牽引するキャラクターが個性的なおかげでリーダビリティが保たれている点も大きな魅力で、そして何より独自の設定『マッドハウス』を余すことなく活用した素晴らしい独創的な変格ミステリだ。


(「ダンジョン珍百景」4選/文=柿崎憲)

異世界の中で花開く本格落語の世界!

  • ★★★ Excellent!!!

 落語の舞台といえば当然江戸時代、中には現代を舞台にした新作落語なんてのもありますが、本作では与太郎が「あの、トーリョー、なんかいいクエストないかな」と言ってくるファンタジー世界を舞台にした落語なのである!

 まず、なんといっても落語風の語り口がめっちゃ上手い! ファンタジー世界なのに、登場人物が棟梁と与太郎な時点でくすりとしてしまうが、この二人の掛け合いが実に巧みで、水を飲むように文章をスルスルと読み進められる。ダンジョン内でモンスターやトラップを発見するたびに与太郎が的外れな発言をして、それに対して棟梁が的確にツッコミを入れるというお決まりのパターンが心地よいリズムを生み出している。

 落語の登場人物がダンジョンでおかしな冒険をするだけの愉快な話で終わらずに、最後のサゲの部分もバッチリ決まっていて、新作落語としての完成度も非常に高いのだ。落語好きな方には是非読んでもらいたいし、落語を全く知らないという人にも「落語ってのはこういう面白い噺なんだよ」と自信を持ってオススメできる一作だ。


(「ダンジョン珍百景」4選/文=柿崎憲)