『無言の帰宅』という言葉がネット上で話題になりました。『無言の帰宅』が示す死の暗喩がわからないという人の声が大きかったことで、日本人の語彙力の低下が物議を醸しました。新しい言葉が流行っては、あっという間に廃れて消えていく現代では仕方がないのかもしれません。日本語って難しいですよ。いまでこそライターをしている自分ですが、本来は理系なんですよ。中高校生で国語の勉強を真剣にやっていた記憶はありません。大学生まで『不断の努力』を『普段の努力』と勘違いしていた覚えがあります。こうして小説の感想文を書くようになったのは、社会人になってからです。それでも10年以上続けていれば、なんとかなるもので、こうしてお仕事をいただけるくらいにはなりました。しかし仕事で原稿と向き合うたびに、いまでも語彙力が不足してると痛感して勉強する日々です。そんなこんなで、今回は日本語を学んだり、言葉を楽しむ人々の物語を取り上げてみました。日本語は難しいけれど、使いこなせれば便利で楽しいものであります。ぜひ皆さんもカクヨム通じて書くこと、読むことを楽しんでみてください。

ピックアップ

自分の気持ちを自分の言葉で AIから心を学ぶ語彙トレ日記

  • ★★★ Excellent!!!

 いつの間にか、自分の気持ちを言葉に表せなくなった少年・晶。そんな彼が、言語支援AI・AICOのサポートを受けながら、自分の気持ちと向きあって、気持ちを言葉にする力を取り戻していく。これは、ひとりの少年がAIで言葉を学び、自分自身を取り戻していく成長と再生の物語です。

 AIは、人間よりも巧みに感情を表現してくれる。しかし、それは本当に"自分の言葉"なのか? 誰かの言葉じゃない、自分の言葉で自分を表現したい。そんな晶の熱意に胸を揺さぶられます。

 AICOとの対話で晶は、「五感を使うこと」「色を想起すること」「比喩を活かすこと」など、さまざまな表現技法を学んでいきます。自分の気持ちを整理して、ひとつひとつの思考に名前や色や形をつけていくことで、ぼやけていた意識が鮮明になり、感情が活き活きと弾んでいく姿にワクワクしてきます。

 自分の気持ちにぴったりはまる言葉を見つけたときって、快感が走りますよね。まるで自分自身を理解できたような達成感と安堵感がわきあがりませんか。そんな、言葉を正しく使えた喜びが晶の文章を通じて伝わってきます。

 物語には、読者自身の表現力を磨けるトレーニング問題も添えられています。語彙力を伸ばしたい方、あるいは「自分の言葉」を探したい方、ぜひトライしてみてください。


(「日本語を楽しもう」4選/文=愛咲優詩)

学びを楽しむ 学校や教科書では教えてくれない"勉強の極意"

  • ★★★ Excellent!!!

 勉強嫌いの中学三年生・佐々木健太は、偏差値38の落ちこぼれ。そんな彼が、片思いの少女・白石莉奈と同じ高校に進学したい一心で、超進学校「王葉高校」を目指して受験勉強に挑む。初めて本気で勉強に向き合った少年が、本当の「学び」の意味を知り、成長していく青春ストーリーです。

 主人公の健太が、市立図書館で出会った謎の司書・田村さん。彼の教えによって、いままで見ていた世界が一変していく発見や、学ぶ喜びに心が浮き立つんですよ。

 「英語は音楽」、「数学は友達」、「社会は物語」、「国語はパズル」、そして「理科は『世界の秘密』」。一見、奇抜なようで、実は本質を突いた"勉強の極意"の数々。学校では教えてくれない本当の「学び」に、大人である自分もハッと気付かされます。私も、もっと早くに知りたかった。

 田村さんの助言が、知識の迷宮を彷徨う健太の「冒険の地図」となって、過酷な道程に確かな一歩一歩を刻みます。それまで劣等感から好きな女の子の前でオドオドしていた健太が、努力を重ねたことで自信を得て、大人の落ち着きと思慮深さを身につけていく成長ぶりに胸が熱くなりました。

 「勉強は、辛いだけじゃない。学びは、楽しい」。かつて勉強に悩んだ、すべての学生の心に響く一作です。


(「日本語を楽しもう」4選/文=愛咲優詩)

戦場に架ける言葉の橋 日本兵と友達になった海軍士官

  • ★★★ Excellent!!!

 1942年、第二次世界大戦末期のアメリカ合衆国。海軍日本語学校に、ひとりの青年士官が入学する。彼の名はドナルド・キーン。のちに日本文学・日本文化研究の第一人者として名を馳せ、日本に永住し、96歳で日本で生涯を終えた人物である。さまざまな参考文献を元に、ドナルドさんの青春時代を描いた伝記小説です。

 敵国にいながら、日本語を学び、日本文化を愛するドナルドさんと終戦直後の日本人との交流が友愛に溢れて涙を誘います。

 ハワイに赴任したドナルド少尉の任務は、捕虜の尋問。しかし、彼が出会ったのは「敵国兵士」ではなく、家族を愛し、平和を願うごく普通の「日本人」。英語を話したがる者もいれば、戦争に疑問を抱く者もいる。ドナルドさんは、そんな捕虜たちと友達になろうとする。最初は警戒していた捕虜たちも、共にコーヒーを飲み、語り合ううちに、次第に笑顔を見せていく。そんな政治や戦争を越えた友情が胸を打つんです。

 遠い異国の地から本当の日本を愛してくれたドナルドさんに、深い敬意と感謝の念が湧き上がる。彼の思いは、戦争の時代を超えて、今を生きる私たちにも大切なことを教えてくれている。


(「日本語を楽しもう」4選/文=愛咲優詩)

噺家さんに会いに行こう! 落語女子の寄席放浪記

  • ★★★ Excellent!!!

 日本語の伝統芸能といえば、落語でしょう。現代にはない江戸言葉や風習がいまも息づいています。

 筆者の優美香さんは、大の落語好き。毎週のように寄席へ通う彼女の落語ライフを綴ったエッセイです。落語のあらすじや解説も興味深いのですが、噺家さんとの交流エピソードがとにかく面白い。

 優美香さんは江戸前落語も上方落語も、新作も古典も分け隔てなく楽しむタイプ。お気に入りの噺家さんの公演を昼夜通しではしごしたり、若手の噺家さんをYouTubeで発掘したりと、落語への情熱と愛情が行間から溢れます。

 噺家さんとの舞台裏での会話や、客が自分ひとりだけという贅沢なミニ落語会の思い出など、寄席のほんわかとした空気が感じられます。記帳すると年賀状や暑中見舞いをいただけるなど、観客と噺家の距離が違いというのも、落語の魅力の一つでしょう。

 「あの噺家さんは色っぽい」、「あの人は知的で素敵」と熱弁する姿は、まるでアイドルを追いかけるファンのようで微笑ましくなります。

 同じ演目でも演者によってまるで異なる顔を見せる落語。その人情と言葉の技を、改めて味わいたくなるエッセイです。


(「日本語を楽しもう」4選/文=愛咲優詩)