スマホを購入して早数ヶ月。最近外出先でマップのナビ機能を使い出し、ついに月の消費ギガが0・1を上回ったおじさんです。音声入力機能最高! とはいえウェブサイトをブックマークする方法とかホーム画面の整え方とか未だまったくわからないことだらけですけれどもね。
 そうそう、旅といえば、今年はお誕生日に居住市のホテルへ泊まることにしました! なにをするかって、それはもう閉じ籠もって仕事するんですよ。昔の作家さんがよく「ホテルにカンヅメにされた」、あれを体験したいのですよねぇ。まあ、朝ご飯出るしお風呂もトイレも掃除しなくていいし、1日を丸々仕事にぶっ込めるなんて業務請負的には贅沢の極みってやつですよ。なので自分への誕プレとしてはなかなか気が利いてるんじゃなぁい? と必死で思い込むことにしました。
 などという話もありつつ。今月は金のたまご回ということで、ジャンル問わずの4作品を選ばせていただきましたよ。どうぞお楽しみくださいませー。

ピックアップ

猫をただただ受け容れる傭兵の横でやきもきする飲み友達の話

  • ★★★ Excellent!!!

「どうも家に猫が住み着いたらしいのだが」、飲み友達の傭兵コウから唐突に切り出され、“僕”はとまどう。姿は見えないが実害もないのでそのままにしておくとコウは言うが、しかし。話を聞くにつれ、“僕”にはそれがただの猫だとは思えなくなって……とうとうコウの仕事の手伝いを始めたり家を守ったりし始める猫の正体とはいったいなんなのか?

『シャーロック・ホームズ』のワトソン君的主人公である“僕”ですが、おもしろいのはコウさんがやはりワトソン君役であることですね。そんな彼が猫というホームズの行動を記録して語る――しかも猫の正体にまるで疑問を持たず、顛末だけを告げていくからこそ、“僕”と読者は猫の正体知りたい欲を掻き立てられるのです。

 そうして焦れた“僕”に激しく詰め寄られてもコウさんは一切動じません。だからもう我々はキーッ! とさせられるわけですよ。本当に憎たらしい男ですねコウさんは!

 ともあれコウさん家の猫、その正体やいかに!? 正解は本編で!


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)

駄菓子屋という場所へ集い、思いを交わす人たちがいる

  • ★★★ Excellent!!!

 平成5年。今日も自宅の裏に建てた駄菓子屋『たんぽぽ屋』の軒先でパイプ椅子に腰を下ろし、コーヒー牛乳を手に通学路を眺める店主の坂本誠一。まるで金にならない店ではあったが、それでもぽつりぽつりと人はやってくる。しかして紡ぐのだ。ささやかながらも唯一にして無二なるその人だけの物語を。

 平成5年、すなわち30年以上の昔を舞台にしたこの物語、駄菓子屋という場所がノスタルジックな場所としてだけでなく、会話の口火や行動のきっかけになっているのです。

 駄菓子屋という非日常的空間が、ささいながら噛み殺すことのできないストレスや諸問題で固く蕾んだ人の心をほろっと緩めて語らせたり、思わぬ縁を結んだりしてくれる。誠一さんだけじゃなく登場人物全員が主人公になれるだけじゃなく、やわらかくて深いドラマを語り上げられるのはこの場があればこそ。実に魅力的な舞台が仕立てられていて目と心を惹き込まれました。

 読むとやさしい気持ちが心に灯る、あたたかな一作です。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)

事件を解明するのは刑事でも探偵でもない、妖怪だ!

  • ★★★ Excellent!!!

 とある村で殺人事件が起きた。容疑者は被害者の画家と顔見知りで、作品を買いに来ていたというが……言ってみればただそれだけの事件が、たったふたつの要素をもって怪事件と成り果てる。ひとつめは容疑者が妖怪くねくねを目撃して心神喪失状態にあるらしいこと。そしてふたつめは、当のくねくねがその場にいて、容疑者を知らないことだ!

 冤罪で評判を落としたくねくねが名誉挽回のため事件の真実を明かしに行く。そのシンプルなのに意表を突いた導入でまず驚いて、くねくねが極々普通に人間っぽいことでさらに驚かされました。キャラクターを極端に突き抜けさせず、読者に近しく寄せているわけなのですが、それを特殊能力持ちな妖怪で実行する大胆さは好評価ですし、特殊能力を“謎”へと昇華させ、妖怪と相性最悪なはずのミステリーに融和させた筆の力、これはもう高評価をつけさせていただくよりありません!

 そして気になるオチですが……これにつきましてはご自身の目でお確かめくださいね。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)

これはひとりの創作者を思い起こし、送り出すための回顧録

  • ★★★ Excellent!!!

 カクヨム甲子園へ作品投稿することを決めた高校生は“柑月渚乃”のペンネームを自らへ与え、活動を開始した。――柑月渚乃だった頃の自分を月城ナノとなった現在から返り見、創作へ向かう自分の愛し方を探るエッセイ。

 こちら、もっとも多感で繊細な高校時代にカクヨム甲子園へ挑んだ月城さんの回顧録となります。

 まず目を引きつけられたのは『私はあの頃、柑月渚乃を演じていました。』、この一文ですね。創作はそもそもキャラクターに作者自身の思いや願いを演じてもらう一面がありますよね。だからこそ続けて綴られていく吐露が本当に「わかる」ものばかりで……読者は自身へ月城さんが曝け出したものを重ねてしまいますし、共感せずにいられません。そして生臭いまでの本音を叩きつけられ、打ちのめされずにいられないのです。

 これはひとりの創作者の回顧であり、うそぶきであり、叫びである。読み専の方へももちろんなのですが、創作者の方、ぜひご一読ください。


(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=髙橋剛)