昔は「スポーツの秋」という言葉に「言うほどスポーツの季節か? どっちかというと夏のイメージでは?」などと思ったものですが、最近は夏に対して「この暑さで外での運動は無理だな……」という気持ちが年々高まってきており「スポーツの秋」という言葉にかつてない説得力を感じております。
というわけで今回はスポーツの秋にちなんで、スポーツ小説特集でいきたいと思います。関東各地で猛暑日を記録したばかりなのにもう秋の気分かよと思われるかもしれませんが、色々とスケジュールの都合があったりするんスよ……。というわけで卓球、ボクシングという王道のスポーツに、eスポーツ、さらには幕末に転生してスポーツ振興に励む男などの変わり種も加えたスポーツ特集です。よろしくお願いいたします。

ピックアップ

挫折した天才の復活を描く、極上の卓球小説

  • ★★★ Excellent!!!

 幼少期から卓球界で天才と謳われてきた不知火湊。しかし、中学時代の敗北をきっかけに彼は卓球を辞めて男子卓球部のない高校へ入学することに。このまま卓球とかかわりのない三年間を送るはず……が、そこで出会ったのは廃部寸前の女子卓球部で一人活動を続ける佐村光。彼女との出会いをきっかけに湊はコーチとしてもう一度卓球に関わっていく……。

 かつては勝利だけを追い求めた湊が、コーチとして今までとは違った視点で卓球に触れて、卓球の本来の楽しさを思い出していく……ある意味ベタな展開だ。だが、これが大変面白い! やはり王道とはベタの中にあるのだと改めて実感した。湊の指導を受ける部員たちも性格はもちろんだが、プレイスタイルがそれぞれ個性的でキャラクターとして全員に異なる魅力があるのが嬉しく、また彼女たちの影響を受けて湊が選手として復活していく姿も熱い!

 挫折した天才の復活劇と同時に卓球初心者たちの成長という、スポーツ小説で一番おいしい部分がたっぷり描かれており、試合の描写も過度に説明的になりすぎずに、専門用語をさりげなく交えながら、スピード感のある試合もたっぷり描かれていて、満足度が非常に高い。

「正統派なスポーツもので何か面白い小説がない?」と訊かれれば、自信を持って本作の名前を挙げていきたい。


(「スポーツの秋! スポーツ小説特集!」4選/文=柿崎憲)

圧倒的な才能を持つ男がボクシング界に伝説を作る!

  • ★★★ Excellent!!!

 神から『柔軟な身体』、『コーディネーション』、『超回復』という三つの特典を与えられて現代に転生した皇拳聖。運動の分野なら何をやっても成功するであろうチートを手にした彼が選んだのは父親と同じボクシングの道! ここに日本初、いや世界初の9階級制覇を目指す男の物語が幕を開ける!

 本作の読みどころは何と言っても拳聖の圧倒的な才能による快進撃! ただでさえ強烈な特典を持っているのに、さらに前世の記憶があって精神的には大人だから、子供のころから地味なトレーニングにも耐えられるし、慢心だってしない。こんな奴に普通のボクサーが敵うはずがない!

 おかげで序盤の日本編では圧倒的な無双っぷりが楽しめるの。しかし、物語が世界編に突入すれば、対戦相手は各階級のチャンピオン。どいつもキャラが立っているし、試合の内容も一筋縄ではいかなくなってくる。またボクシングでは避けては通れない減量の問題、さらには学業との両立など試合以外の部分で苦しめられる展開も。

 それでも終始明るく元気な拳聖の語り口が読みやすく、物語も拳聖の快進撃に合わせてスイスイ進むため、テンポよく爽快感を味わえるのが嬉しい。泥臭さやハングリー精神などの昔のスポ根のようなイメージとは一線を画す、明るく現代的なボクシング小説だ。


(「スポーツの秋! スポーツ小説特集!」4選/文=柿崎憲)

伝わる人にはたまらない、純度高めなFPS小説!

  • ★★★ Excellent!!!

 弱冠13歳で人気FPS【FLOW】の初代世界王者となり、さらにプロゲーマーになるもある理由で引退した八神翔。時は流れ18歳となった翔はかつての相棒を誘い世界大会で華々しくカムバックしようとするのだが、間違って練習用のサブアカウントを使ってしまったために、予選で異常な成績を叩き出した謎の新人として世界中から注目を集めることに……。

 物語の冒頭から細かい前置きなどはなしでいきなり大会が始まるぐらい、ゲームプレイの様子がメインとなっており、ここまでゲームの内容ばかりクローズアップした作品はなかなか珍しい。元世界王者だけあってスモーク越しに敵を撃ち抜いたり、相手が立てた音だけで居場所を完全に見極めたりと数々のスーパープレイを次々にお披露目していく翔だが、【FLOW】の元ネタとなっているゲームが何なのかわかりやすく描かれているだけに、元ネタのゲームをプレイしたことのある人にはより臨場感が伝わることだろう。

 またVtuberとしてスカウトされて同期のメンバーと一緒にゲームをプレイする際のわちゃわちゃ感や、プロを引退することとなった過去の因縁のエピソードなども挟まれておりそちらも読みやすくリーダビリティが高い。だがメインになっているのはやはりゲーム中の対戦描写。某FPSをプレイしたことがある人にはぜひ読んでもらいたい。


(「スポーツの秋! スポーツ小説特集!」4選/文=柿崎憲)

日本の夜明け、それはスポーツの夜明けの時代でもあった

  • ★★★ Excellent!!!

 大きく日本の歴史が変わった幕末という激動の時代。この時代に現代の知識を持って転生すれば、大きく日本の権力を塗り替えることも夢ではない……のだが、本作の主人公、宮地燐は政治をどうこうしようという気はなくて、代わりに彼が望んだのは自らの手で近代オリンピックを復活させることだった!

 日本史でもトップクラスに人気な時代の幕末だが、世界規模で見れば次々と近代スポーツが勃興した時代でもある。前世で学んだスポーツ史の知識とこの時代では卓越した英語力を駆使して宮地はアメリカや欧州へ渡り、日本にスポーツを持ち込もうとする。この歴史ものでは珍しい当時のスポーツの描き方が非常に斬新。

 また宮地本人はあくまで日本にスポーツを広めるのがメインであり、本来の歴史に影響を与えたくないというが、絶賛鎖国中だった日本からペリーが乗ってきた黒船でアメリカに渡ろうとする男である。そんなことをやっていたら当然日本の歴史にも様々な変化を及ぼすし、さらにはアメリカの南北戦争に関わったり、ギリシャの首相候補になったりと、歴史改変ものならではのイベントを世界規模で展開してくれている。

 スポーツという一本の軸を通して描かれる19世紀の世界。ユニークな歴史ものが読みたいという人にはぜひおすすめです!


(「スポーツの秋! スポーツ小説特集!」4選/文=柿崎憲)