7月よりはまし! そうと己へ言い聞かせながら8月を生き抜いて参りました太まし坊主メガネおじさんです!
 今月は「フーダニット(誰が犯人なのか?)」と「ホワイダニット(犯行の動機は?)」、ミステリーにおいては基本中の基本と言えるテーマであるふたつの「ダニット」へ注目し、4作品を選ばせていただきました。
 実際、ミステリーとなればかならずや事件が起きたとなれば起こした犯人がいて、事件を起こすにはそれに見合うだけの動機があるわけで。そうとなれば両者は切っても切り離せない関係性とも言えるのですが。
 謎解きの過程を様々な方向から磨き上げ、真相という宝石を仕上げるフーダニットと、犯人の内面奥深くへ切り込み、思わぬ真相を引きずり出すホワイダニット、寄り添っているはずの両者がどちらへ比重をかけるかにより、まるで異なる物語を魅せてくれる点、本当に興味深いのですよねぇ。
 普遍的であればこそ調理のしかた、すなわちオリジナリティの押し出しかたが問われるふたつのダニット、果たしてどのような妙味を味わわせていただけるものか? どうぞお召し上がりくださいましー!

ピックアップ

これは「密室」に詰められた謎を明かして証すバラエティ番組

  • ★★★ Excellent!!!

 生放送の推理系バラエティ番組『密室大戦』。それは視聴者から募集し、最終選考に残った4つの密室を審査員が評価するというものだ。評価項目は不可能性・難解性・即時性・ご都合主義性・論理性の5点。そして審査員は個性豊かな“名探偵四天王”。優勝賞金の342(みっしつ)万円はいったいどの密室が獲るのか?

 まず発想の妙に目を奪われました! そしてただ密室を提示するのでなく、ドラマ仕立てでその成り立ちを語り、バラエティらしさを演出しつつミステリー的な仕掛けを散らす巧みな構成に引きずり込まれました!

 加えて出演料欲しさに姉の身代わりとして参加した素人探偵にして主人公、赤瀬川芽衣の視点が読者を代行している点――彼女といっしょに謎解きを楽しむ感じ、これがまたすばらしいのですが。それを阻む名探偵四天王同士たちがまた外連味盛り盛りで、芽衣さんと物語を混沌へ陥れてくれるのですよ。本当にキャラ力が高いのです!

 さあ、第一の密室を巡る評価はいったいどうなる!? 芽衣はちゃんと姉の身代わりを務められるのか!? 結末はご自身の目で!


(「ダニットという謎」4選/文=髙橋剛)

誰が誰を殺して誰が誰に殺された? 三つ巴の殺人を巻き込まれた男が解く

  • ★★★ Excellent!!!

 残業を終えての帰路、“俺”は見知らぬ2人組に拉致されて意識を失った。目が醒めるとそこは暗闇で、彼は拉致犯と思しき3人の内のひとりをナイフで刺してしまう。そうしてまたも気絶し再び目覚めれば、部屋の内に3体の死体が転がっていて――機械越しに謎の人物が語る。ここから出たければ自分が誰を殺したのかを特定しなければならない。

 わけもわからず拉致され、正当防衛で刺してしまった犯人を特定させられる。不幸が過ぎるというものですが、そのひとり以外はそれぞれ別の誰かが殺したものである点……3人の関係性が謎を解く鍵となる構造、ここにフーダニットの真髄が埋められている点こそ本作の肝なのです。

 読者は“俺”が拉致される際に聞いた3人の会話や、死体の位置関係、記憶……まさに“俺”が得られるヒントだけを頼りに謎へ挑むこととなります。出題者との真っ向勝負というミステリーの醍醐味をかくも濃やかに味わえる楽しみ、格別ですよねぇ。

 さて、あなたは提示されたヒントから正解を弾き出せるでしょうか? ぜひ挑戦していただけましたら。


(「ダニットという謎」4選/文=髙橋剛)

唐揚げにレモンをかけてはならない。絶対にだ。

  • ★★★ Excellent!!!

 下町の一角にある小さな居酒屋、鈴乃屋。心地よい空間で人々は安らぎのひとときを過ごしていたのだが。「唐揚げにレモンかけんな!」、突如響き渡る怒号! 場は瞬時に修羅場と化し、レモンをかけた男が怒号を上げた男に刺されて……犯人はなぜ、たかがレモンひとつで人を刺すほど激昂したのか? 相楽刑事は動機に秘められた真実を探る。

 以前から多くの人々を悩ませてきた唐揚げレモン問題、こちらはそれに焦点を合わせた一種の問題作となります。

 いや、本当に深いのですよ。犯人である芳賀は取り調べに対し、唐揚げへの狂信を語り出します。それはただの与太話などではありません。彼という人間の有り様そのものであり、だからこそ相楽は納得するどころか芳賀に圧倒され、思考の迷宮へと迷い込んでいく。読者的にはその重さについ根源に唐揚げレモンがあることを忘れたくなるところですが、芳賀はそれを赦しません。1ミリもぶれることなく、己が動機を我々へ突きつけ続けるのです。

 ひとりの男の人生を垣間見るホワイダニット、お勧めに揚(挙)げさせていただきます。


(「ダニットという謎」4選/文=髙橋剛)

彼女が僕に告白したそのとき、彼女の母親が殺された

  • ★★★ Excellent!!!

「好きです、先輩。私とお付き合いしてください」。ふたりきりの校舎裏、少々あざとさが目立つもかわいらしく人気者な後輩女子、恋歌から告白された平凡な“僕”。彼女の誠意を信じられないまま一夜を明かした彼は、登校中刑事に呼び止められた。そして知るのだ。昨日の夕方、つまり彼が告白された頃合い、恋歌の母親が何者かに殺されたことを。

 このどんでんが思いっきり返されるキャッッチーなオープニング! そこから始まる主人公と恋歌さんの対決! “僕”からすればアリバイ作りに利用されたのでは? となりますものね。導入の秀逸さ、この上なしです。

 実際、恋歌さんは怪しいです。直接手を下さずとも誰かに手を汚させることも……と読者に思わせるほどかわいらしく魅力的なのですよ。実に巧みで妙なるキャラクター力と描写力じゃありませんか。

 彼女を前に“僕”は当然迷って悩みます。でもその心情が濃やかだからこそ、真相を明かした彼の言葉は強く胸に響くわけですね。

 事件の解明と同時進行していく“僕”と恋歌さんのラブコメの行方もお楽しみあれー!



(「ダニットという謎」4選/文=髙橋剛)