最近はホラー映画の予告編でも、作品のジャンルがホラーであることを明言しないそうです。確かに今度公開されるカクヨム発の『近畿地方のある場所について』も〝場所ミステリー〟と銘打たれており、「あんな怖そうな予告作っといて、ホラーと断言しないのも逆にどうなんだ」と思ってしまうのですが、その一方で最近はやたら面白いホラー映画が相次いで公開されていて、ホラーというジャンルが好調なのか不調なのかよくわかりません。いずれにせよ、カクヨムではそういう縛りは一切ないので、作者の方々にはぜひ自分の作品にぴったりだと思ったジャンルを選んでほしいですね。
というわけで、今回は新作特集金のたまご。暑さ的には夏が始まったということで、この時期にぴったりなホラー作品もありますし、虫嫌いなのに虫を召喚する力を手に入れてしまった女の子異世界ファンタジーや、タイプの違ったミステリー作品をご用意しました。ぜひぜひ楽しんでいただければ。
密かにオカルト趣味を持つ花畑ゆりあは、友人のギャル河合笑歌から呪いのぬいぐるみが送られてきたという相談を受ける。笑歌を助けるために人形を確認しに向かうゆりあだが、笑歌に見せられたそのぬいぐるみは以前にゆりあが作って別の女性に送りつけたはずのものだった!
この呪いのぬいぐるみが製作された裏には、一人の浮気男を巡る女性たちのドロドロな思惑が交錯していて……というある意味お約束な展開が待っているのだが、本作が凄まじいのは女性陣のキャラが皆強烈すぎるせいで、ドロドロっぷりが読者の想定を大きく超えてくるところ。
登場人物に最初に抱いていた印象が読み進めるにつれて大きく変わっていき、意外な展開も続出して、様々な形で想像を裏切ってくれる。
作者が「ハピエンではないです」と注意書きしているように、終わり方もかなり後味の悪いもののはずなのに、どこかに爽快感も感じられて、「ホラー小説ってのはこうでなくっちゃね!」という気持ちにさせてくれる一作だ。呪いとか爛れた人間関係が好きな人は是非どうぞ!
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
ある日突然異世界に転移してしまった女子高生のエリ。誰もが特殊な力を持つこの世界で、彼女が得た素質は『蟲術師』という激レアな力。その時々に応じて必要な虫を召喚できるという大変便利な力なのだが、致命的な点が一つ。肝心のエリが虫嫌いだったのだ……。
蜘蛛みたいな虫はもちろん、綺麗な蝶々ですらダメなエリにとって相性は最悪だが、異世界で生活していくためにはこの力に頼らなくてはならない。かくして自分で召喚した虫に怯えたり、時には気絶までしながらも、虫の力を借りて異世界を生き抜こうとする様子は読んでいて大変微笑ましい。そしてエリからは毛嫌いされているけど、頼まれた仕事をこなすたびに何か言いたそうにエリを見てくる虫たちが甲斐甲斐しくて可愛らしい。
異世界で暮らすための地盤の作り方がとても丁寧で、虫の力に頼るばかりではなく、現代知識をフル活用してお金を稼いだり、現地の住人と交流していく姿は、オーソドックスな異世界転生なものとしても十分に楽しめる。ただ虫嫌いなエリがなるべく虫を召喚したくないという気持ちもわかるし、ある意味リアルなのだけど、個人的には蟲術師としての力をフルに発揮して虫たちと活躍する展開ももっと見てみたい!
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
大学病院の医療情報システム課に異動した神谷蓮。日々、電子カルテの不具合のチェックやシステムに関する資料準備などの業務に追われながら、同時に彼はある謎を追っていた。一年半前に突然亡くなった上司が、本当にただの病死だったのかを……。
病院が舞台となる作品はよくあるが、主人公が医師や看護師ではなく、システム担当というのがユニークな本作。亡くなった上司が遺したメモを頼りに、システム調査で見つかった病院外からの怪しいログイン履歴や、発注されたのにどこにも存在しない薬品の痕跡など一つ一つの怪しい線を辿って、事件の真相に辿りつくまでの過程がとても周到で、ただ謎を解くだけではなく、大学病院という閉じた環境で、どのように罪を立証するのかまでも丹念に描いている。
ともすれば重い雰囲気になりそうな内容なのだが、その作品の空気を蓮の助手役を務める後輩の篠田葵が明るく中和してくれるのもグッド。謎解き一辺倒に終わらず蓮と彼女の軽いラブコメ要素もある、医療の現場に少し変わった角度からアプローチしていくミステリーだ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)
生活に苦しみ闇バイトに手を出してしまった深町優斗。被害者から金を奪い現場を離れようとしたところで、何者かに写真を撮られてしまう。その日以来、一緒に強盗を行った仲間たちが次々と失踪していく。一方、都内では心臓を抜き取られた変死体の発見が続いていた……。
加害者の立場から一転、謎の男に追われる被害者となった深町に、殺人事件を追う警察官、そして犯行を繰り返す正体不明の殺人鬼「野狗子」など複数の視点が絡み合う群像劇となっており、追う者と追われる者の視点を行き来することで上手く臨場感が出されている。また雰囲気の作り方も上手く、ミステリの冒頭では「死体を転がせ」なんてよく言われるが、人間を生きたまま解体する殺戮ショーで幕を開ける本作は非常に強烈。一つ間違えれば露悪趣味な内容になりそうだが、あまりグロくなりすぎないように抑制的な描写になっているのも好印象。
物語の最大の謎である、殺人鬼である「野狗子」がなぜ心臓を奪うのかという動機が、作品のテーマとそのまま直結しており、エンタメを意識しつつも作者の描きたいことがしっかりと表現されている一作。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎憲)