暑かった夏も過ぎ去り、季節はもうすっかり秋。秋と言えば読書の秋ということで、今回ピックアップする新作は新作ながら分量も充分あって、さらにいずれも連載中のもの。主人公たちは、異世界から帰ってきた馬券師、現実世界から異世界にロボットを送り込む女性、異世界に転生した探偵令嬢と、いずれもバラエティ豊か。秋の夜長のお供にいかがでしょうか?
近頃流行の競馬もの。だが、本作では実際に走るジョッキーや競走馬ではなく、馬券を買う観客にスポットライトを当てたユニークなものになっている。
主人公となるのは異世界から現実世界へと帰還した男、小川。彼は向こうで獲得したスキル『鑑定眼』で競走馬の能力を読み取り、馬券を買って荒稼ぎしようと企む。スピードの高い馬の馬券を買えば勝つに決まってる……! しかし、素人の小川は知らなかった……競馬とはそんな甘いものではない……!
この小川が特殊なスキルこそあれど競馬のことを全く知らないというのが本作の大事な部分。おかげで競馬を知らない読者も小川と一緒に、馬券の買い方から実際の競馬場の独特の雰囲気まで一から競馬を学ぶことができるのだ。そして小川と読者に競馬の世界を案内するのが、競馬場で出会う富田師匠。
この富田師匠、競馬には詳しいのだが、勝てると思ったら全財産を迷わずつぎこむ重度の競馬ジャンキー。しかも勝ったら勝ったでその金を他のギャンブルに注ぎ込んでスッカラカンになるという超ダメ人間。比較的常識人の小川とこの富田師匠のやりとりが非常に楽しく、二人の運命がどう転ぶか気になって読むのが止まらなくなってしまう。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)
物語の舞台となるのは、異世界へのゲートが発見され人類が遠隔操縦ロボット『アクタノイド』を探索や開発に送り込むようになった世界。コミュ障であり就活に失敗し続けていた兎吹千早は自宅からでも勤務ができるという条件に惹かれアクタノイドの操縦者であるアクターとなることに。
資源を求めて異世界をアクタノイドで探索、時には敵対する企業に雇われたアクタノイドとの戦闘など、ロボット好きにはたまらないものがある内容の本作だが、本作はそれに負けない大きな魅力がある。それが主人公である千早のキャラクター!
他人とろくにコミュニケーションが取れず、いつも卑屈な笑いを浮かべてばかり。一見、機械の操縦に向いているように見えないが、実は隠された長所があった。なぜか思い切りが異常に良いのだ。必要とあらば企業からレンタルした機体を平気で自爆させるし、その後も大胆な判断で窮地を乗り越えていく。おかげで周囲からは笑いながら敵を潰す戦闘狂だと勘違いされ、危険な任務ばかりを依頼される。本人は平穏に稼ぎたいだけなのに……。
しかし、ネクラ少女が周囲から勘違いされながら、生活のために危険なミッションに挑む姿でしか得られない栄養がここにある。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)
「パーティーで婚約破棄をされた悪役令嬢はどのようにしてこの窮地を乗り越えるか?」
これは現代悪役令嬢もの作品のもっとも普遍的でもっとも重要なテーマといえる。誰もがどこかで見たことがある冒頭。だからこそ、そこで独自性を出すのが大事になるわけだ。
さて本作の悪役令嬢、ファルラ・ファランドールも上記のシチュエーションに追い込まれるのだが、彼女の場合は数日前に亡くなった王子の死を持ち出し、病死に見せかけて王子を殺した犯人を糾弾することで、この場を逃れる! そう彼女が持つのは抜群の推理力。彼女はこの世界に唯一存在する探偵なのだ!
前世から探偵であった彼女はこの世界についてこのように述べる。
「この剣と魔法の世界では、いかようにもトリックを作れますし、いかようにもトリックを破ることができるでしょう。だから、そこはどうでもいいのです」
だから彼女が重視するのは事件の動機。そしてそれを解明すべく周囲の人間の秘密を次々に暴き立て、場を大混乱へ導く彼女の推理は実に痛快。
また事件を解くばかりではなく、実家から追放されたり、魔族に襲われたり、ダンジョンに呑み込まれたりと異世界ファンタジーならではのイベントが盛りだくさんなのも本作の特徴。次々と困難に見舞われながら、それでも彼女はたくましく生き延びる。これも全て愛するメイド・ユーリスとの幸せを掴むため。ミステリー要素のあるファンタジーが好きな人にはお勧めの一作だ。
(新作紹介「カクヨム金のたまご」/文=柿崎 憲)