概要
二人の入れ替わりは、ラブロマンスではなく絶望の始まりだった。
朝の通勤電車。並走する車両の窓越しに、いつもその男がいた。
同じようなスーツを纏い、同じような疲れを瞳に宿した、自分とよく似た記号。
線路の切り替えポイントで生じた、重苦しい振動。
それは、二人の人生を入れ替える、唐突なエラーだった。
他人の生臭い口臭。じとりと湿ったマスク。自分のものではない体温の余韻。
四十五年間積み上げてきたはずの自分らしさは、外殻が入れ替わっただけで、あっけなく霧散した。
同僚も、上司も、そして血の繋がった母ですら、声という情報の近似値だけで満足し、中身の変質に気づかない。
自分という固有のはみ出した線を消せば消すほど、社会という完成された図面の上で、ぼくは正解として扱われるらしかった。
自分という存在は、唯一無二の結晶などではなく、ただの替えのきく汎用品に
同じようなスーツを纏い、同じような疲れを瞳に宿した、自分とよく似た記号。
線路の切り替えポイントで生じた、重苦しい振動。
それは、二人の人生を入れ替える、唐突なエラーだった。
他人の生臭い口臭。じとりと湿ったマスク。自分のものではない体温の余韻。
四十五年間積み上げてきたはずの自分らしさは、外殻が入れ替わっただけで、あっけなく霧散した。
同僚も、上司も、そして血の繋がった母ですら、声という情報の近似値だけで満足し、中身の変質に気づかない。
自分という固有のはみ出した線を消せば消すほど、社会という完成された図面の上で、ぼくは正解として扱われるらしかった。
自分という存在は、唯一無二の結晶などではなく、ただの替えのきく汎用品に
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